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慰謝料と養育費は相殺可能か

2020-07-07
離婚

慰謝料と養育費の相殺は可能か

慰謝料と養育費との相殺は可能でしょうか?
「相殺」と書いて「そうさい」と読みます。一般的には貸し借りを精算して「チャラにする」というイメージがあるのではないでしょうか?養育費と慰謝料、ともに金銭で支払われる場合には、この相殺を用いれば一挙に解決できるため合理的なようにも思えます。
では、法律上このような相殺は認められるのでしょうか?
場面を想定して解説します。
 

妻の不倫で離婚。妻は夫に対して慰謝料支払い義務を負っている。離婚に際して、子供の養育権は妻、夫は毎月養育費を支払う取り決めがなされた。

(ケース1) 

その後、夫の養育費支払いが滞ったため、夫が妻に対して養育費と慰謝料を対等額で相殺する旨主張。

(ケース2) 

離婚に際して、夫婦で慰謝料請求権と養育費分担請求権を対等額で相殺する内容の合意(養育費不請求の合意)がなされた。

 

ケース1

 自ら養育費を滞納した夫が一方的に相殺を主張しています。このような相殺は許されるのでしょうか?
 

相殺の要件

相殺とは2つの債権を意思表示により消滅させることをいいます。すなわち相殺を求める側の一方的な意思表示によって対立する債権と債務を帳消しにするものです。
ただし、相手も債務者であると同時に債権者である以上、相手にも言い分があり何でもかんでも相殺できるわけではありません。民法では以下の要件が定められています(505条)。  
 

 ①相殺適状にあること
  • ア 当事者間で債権債務が対立していること
  • イ 対立している債権が同種の目的を有すること(ex.ともに金銭債権)
  • ウ 相殺しようとしている債権・債務が弁済期にあること

     

 ②相殺禁止事由がないこと
  • エ 債務の性質が相殺を許さないものでないこと
  • オ 当事者が反対の意思を表示していないこと

 

 ③相殺の意思表示

相殺は相殺をしようとする者の一方的な意思表示により行います。
この意思表示には条件や期限は付けられません。相手が不安定な立場に立たされるからです。
 

相殺の可否

 

・当事者間で債権債務が対立していない

養育費は、離婚後の未成年者の学費、食費など生活に必要な費用をいい、通常は未成年者の非監護親(事例では父)から監護親(母)に対して支払われます。この養育費の前提となるのが、子自身が親に対して扶養を求める権利、つまり、生活費を請求する権利(扶養料請求権)です。ここで注意しなければならないのが、養育費の請求・管理は監護親がしますが、あくまでも子の扶養料請求権の実現のために子を代理して行うにすぎません。
これに対して、慰謝料の請求権者は父、支払い義務を負うのは不貞行為を行った母です。
つまり、養育費の請求は子どもから父、慰謝料の請求は父から母であり、両者は対立していません。したがって上記要件ア「当事者間で債権債務が対立していること」を満たさず、相殺はできません。
 

・養育費支払い債務の期限が到来していない

養育費の支払い期限は、子供の生活費という性質上、原則として毎月決まった額を支払う定額給付方式がとられています。このため子どもが未成年の間はすべての養育費については未だ期限が到来していないことになります。したがって上記要件ウ「相殺しようと考えている債権・債務が弁済期にあること」を満たさず、やはり相殺できません。
 

・養育費を相殺の対象とすることが禁じられている

養育費は子どもの生活費に現実に充てられることが重要であるため、差し押さえることが許されない債権です。このような差押禁止債権を相殺の対象とすることはできません(510条)。したがって上記エ「債務の性質が相殺を許さないものでないこと」を満たさず、相殺できません。

以上の理由からケース1の相殺は法律上認められていません。
 

ケース2

ケース1のように父の一方的な意思表示で行う相殺は法律上認められていませんが、父母間の話し合いで対等額を相殺し、その限りにおいては養育費を請求しないという合意は可能でしょうか?
 

養育費不請求の合意の効力

 

子どもに対して

 
先にも述べたとおり、養育費とは子どもの親に対する扶養料請求権を前提としています。あくまでも子どもの権利であり、たとえ監護親といえども勝手に処分したり放棄することはできません。かりに子ども自身が「いらない」と言ったとしても、民法881条にも「扶養を受ける権利は、処分することができない」と規定されています。この規定は強行法規であり、これに反する合意は無効です。
したがって父母が不請求の合意をした場合であっても、子どもは非監護親に対して養育費の支払いを求めることができます。
 

父母間において

もっとも、養育費不請求の合意が父母間での養育費負担の取り決め内容(ex.母が養育費用を全面的に負担する)である場合、父母間においては有効と考えられています。
したがって、その後監護親が合意に反して養育費を請求するに至った場合には、合意がある以上、母による父への養育費の支払請求は認められません。
もっとも、養育費とは別に子ども自身の扶養料請求が認められる余地があります。その際には、不請求合意の存在のほか、合意後の事情変更の有無やその程度、子どもの福祉を考慮する裁判例が数多くあります。
つまり、父母間では養育費不請求の合意は有効ではあるものの、この合意に反する請求がなされた場合には、子どもの福祉の観点から扶養料請求権と名前を変えて父に支払い義務が発生しうるのです。裁判所は、父母間で養育費の支払いを免れる合意をしたとしても、子どもに対する扶養義務を免れるわけではないと解釈しているようです。
 

相殺に代わる手段

以上のように、養育費を対象とする相殺は困難です。
しかし、子どもにとって大事な養育費で相殺を求めるのは、背景にやむを得ない事情があるケースが考えられます。ここでは考えられる事情と相殺によらない対処法を簡単に表示します。

考えられる事情 手段
監護親

(有責配偶者)

不貞行為の慰謝料を支払わない ・内容証明の送付

・分割払い

・強制執行

子どもとの面会交流に協力しない ・面会交流調停

・履行勧告

・強制執行

・損害賠償請求

非監護親 養育費を支払わない ・内容証明の送付

・履行勧告、履行命令

・強制執行

 
子どもの福祉を図りつつ、ご自身の権利を実現するためには各種手段について詳しい弁護士にご相談ください。

著者

後藤千絵先生
弁護士

後藤ごとう 千絵ちえ

京都府生まれ。滋賀県立膳所高校、大阪大学文学部卒業後、大手損害保険会社に総合職として入社。

30歳を過ぎてから法律の道を志し、2006年に旧司法試験に合格。

08年に弁護士登録し、2017年にスタッフ全員が女性であるフェリーチェ法律事務所を設立。

離婚や相続など、家族の事案を最も得意とし、近年は「モラハラ」対策にも力を入れている。

著作に「誰も教えてくれなかった離婚しないための結婚の基本」(KADOKAWA)、『職場の嫌な人から自分を守る言葉の護身術』(三笠書房)がある。

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