1.はじめに
未成年の子供がいる夫婦が離婚をする際には、夫婦のうちどちらが当該未成年の子供を引き取るべきかは、重要な問題の1つであるといえます。
読者の皆さんの中には、「親権」という言葉を聞いたことがある人も多いことでしょう。
実は、子供を持つ親には、親権に加えて、監護権という権利もあるのです。
監護権を持つ人、いわゆる監護者とはどのようなことを行う必要があるのでしょうか?
この記事では、まず、親権に関する法律上の位置づけを説明し、次いで、監護者の役割について触れ、さらに、監護者を決める手続き等を解説していきます。
親権や監護権という法律上の権利について「難しい」と感じる人も少なくないと思いますが、この記事では、必ずしも法律に詳しくない人でも短時間で親権と監護権の全体像を理解できるように、分かりやすく解説していますので、ご安心ください。
ぜひ最後までご覧ください。
2.そもそも親権とは?
監護者・監護権の説明に入る前に、親権・親権者について整理しておきましょう。
一見、遠回りに感じるかもしれませんが、実は、その方が監護権の理解が容易になるのです。
2.1.未成年の子供に対する監護保護を内容とする権利・義務
親権は、未成年者の子供を監督保護することを指し、どのような子供の父母であっても行う必要のある権利かつ義務です。
親権者は、子供の利益のために子供の監護および教育をする権利を有するとともにその義務を負っています(民法第820条)。
具体的には、子供の財産を管理し(財産管理権)、子供と一緒に暮らすことにより、子供を監護・養育すること(身上監護権)を、その内容とします。
財産管理権は、子供の財産を管理する包括的な財産管理権の他、子供が行う法律行為に対して同意を与えたりすることを指します(子供が自己の物を売買等行う際に同意や取消しを行ったり、子供がアルバイトを行う際の同意等が代表例であると言えます)。
子供の父母が婚姻状態を維持している状態であれば、親権は原則として父母どちらもが持っています(共同親権、民法第818条第3項)。
2.2.父母が離婚する際の親権者
子供の父母が離婚する場合、離婚後に父母のいずれが子供の親権者となるのかについて、定めておく必要があります(民法第819条第1項、同条第2項)。
このことは、協議離婚の際も裁判上の離婚の際も同様です。
実際、離婚届の様式においても、親権を父母のいずれにするかに関する欄が設けられており、その記載がない場合には離婚が受理されないのです(民法第765条第1項)。
もっとも、これに違反して受理された場合に離婚が不成立となったり、無効となるわけではありません(民法第765条第2項)。
親権がある父または母は、未成年の子の監督保護を行うとして、身上監護や教育を受けさせること、子供の財産管理をすること、さらには子供の法律行為の代理をすることを必要とします。
本来であれば父と母が互いに協力してやるべき子供に対する監督保護を離婚すると1人で背負うことになります。
その親権を父が持つか母が持つかですが、現在の実情としては母が親権を持つことが多いといえます(現在、母が親権者となる割合は、約8割であると言われています)。
その理由は、世間一般的に社会での活躍が多い男性は、監督保護が難しいとして女性に親権が渡ることが多いためです。
また、母が妊娠中であるときに離婚した場合は母親が親権者になるのが一般的となっています。
なお、立法論として、父母の離婚後においても共同親権を原則とする考え方も主張されています。
しかし、子供の福祉という目的に照らして当然に共同親権を維持することが適切であるとは必ずしも言えないでしょう。
特に、実際に子供を監護している親の一方が再婚した場合には注意を要するところです。
また、子供を実際に監護していない父または母が包括的な財産管理権を有することにも課題があるように思われます。
なお、親権をめぐる諸問題について、以下に紹介するページで詳細に解説をしています。
法律、とりわけ親族法に詳しくない人でも容易に理解することができるよう、工夫して解説していますので、ぜひ読んでください。
参照ページ
離婚の際の親権者を決める基準 | 兵庫県西宮市の女性弁護士による法律相談はフェリーチェ法律事務所
子の親権は変更できるのか | 兵庫県西宮市の女性弁護士による法律相談はフェリーチェ法律事務所
共同親権とは | 兵庫県西宮市の女性弁護士による法律相談はフェリーチェ法律事務所
親権争いで子どもの意見は重視されますか? | 兵庫県西宮市の女性弁護士による法律相談はフェリーチェ法律事務所
親権を確定する要素とは? | 兵庫県西宮市の女性弁護士による法律相談はフェリーチェ法律事務所
父親に親権を渡したくない場合 | 兵庫県西宮市の女性弁護士による法律相談はフェリーチェ法律事務所
3.監護権について
この記事では、これまで親権について概観しましたので、そのうえで、今後は監護権について解説していくことにします。
3.1.親権と監護権の違い
それでは親権と監護権の違いは何なのでしょうか?
読者のみなさんにおかれましては、この記事のこれまでの記述の中で親権と監護権の位置づけについてお気づきになった人もおられるかもしれません。
実は、監護権は親権の一種なのです。
子供を監護・養育する身上監護権がこれに該当します。
上述のように、離婚後は父母のどちらか一方が子供の親権を持ちますが、親権者は身上監護のみをもう一方に任せることができ、これこそが監護権になるのです。
この監護権を行使する人(監護者)の多くは、子供の近くに住んでいるといった方が多いです。
監護者は、陰ながら子供を支えるような形で世話や教育をし、親権者に以下のようなことがある場合に必要とされています。
- 出張の多い親権者で子供との生活において、世話や教育や世話ができない場合
- 財産管理について父親が行うが、子供が幼いが故に母親が監護者として子供の世話を行いたい場合
- 父母間の協議において、いずれが親権者となるか、相手と折り合いがつかず、どっちつかずの状態を打破したい場合 など
監護権は親権同様に父母どちらにも認められています。
3.2.親権と監護権を分ける意味
次に、父母が離婚するにあたって、子供に対する親権と監護権とを分けることには、どのような意味があるかを考察していきます。
本来的には、親権の一部として親権者が子供に対する監護責任を負いますが、親権者と監護者というように個別に分けて切り離せるため、相手との間で長引く離婚の親権問題の解決策にもなっているのです。
つまり、「父母のいずれが子供と一緒に生活するのか」について相手と争いが生じ、これに対する結論が出ないために離婚に関する協議が長期化するケースがあり、これを解決するための、いわば切り札的な存在として用いられることがあります。
もっとも、財産を管理する親と身の回りの世話をする親が別にいることは、実生活上、迂遠である場合も少なくなく、不都合が生じ得る場合があるのも事実です。
このようなことから、監護者は、親権者と同じ親である方が子供の福祉という観点に沿うものと一般的に解されています。
なお、親権者と監護者とを分けた場合には、親権者が監護者に対し、子供の養育費を支払うことになります。
養育費は、子供を監護・養育するために必要な費用であり、子供と一緒に暮らし、育てる監護権者に支払われるためです。
参照ページ
親権が取れなければ子どもとは会えませんか | 兵庫県西宮市の女性弁護士による法律相談はフェリーチェ法律事務所
母親でも親権がとれない場合 | 兵庫県西宮市の女性弁護士による法律相談はフェリーチェ法律事務所
3.3.監護者を定める手続き
離婚時に監護者として監護権の権利を得るためには、一定の手続きが必要になってきます。
ただし、その手続きは難しいものではなく、親権者の指定や変更と同程度のものです。
監護者を決定する手続き過程を概説すると、以下のようになります。
- 父母による協議、すなわち話し合いで監護者を決定する。
- 父母による協議で決まらない場合には、家庭裁判所に監護者指定の調停または審判を申し立てる。
監護権を得る流れとしてはまず、父母同士の協議を行うことにより監護者を決めましょう。
このときに決まらない場合には、少々時間がかかりますが家庭裁判所に監護者指定の調停や審判を申し立ててください。
裁判所の手続を利用することにより、子供と父母それぞれの状況に応じて適任となる方に監護権が言い渡されます。
家庭裁判所の判断基準は、次のとおりです。
- 子供を十分に養育していけるかどうか。子供を育てるためには職業に従事していることは非常に重要になります。
- 子供の成長のために父母どちらが監護者として適任であるか。
上記のような観点から、子供の利益や福祉を観点に考えられていきます。
もっとも、監護者は、離婚をした後でも決めることができることを念頭に置いておくと良いです。
親権に関しては、離婚時にしっかりとどちらが持つべきか決めなくてはなりませんが、監護権は離婚の要件になっておらず急いで決める必要はありません。
ただし、離婚時にきちんと決めてけじめをつけたいという方は、協議ないし家庭裁判所でどちらが監護者になるのか決めていきましょう。
なお、細かなことですが、離婚届には「親権者」を記載する欄はありますが、「監護権者」を記載する欄はありません。
このため、父母が離婚するにあたり、やむを得ず親権者と監護者とを分けることとなった場合には、書面化(離婚協議書や公正証書)しておかないと、後日、トラブルに発展する可能性があるため、注意が必要です。
こうした場合に備え、後述するように、離婚問題に詳しい法律専門家としての弁護士に対応を相談していくことは非常に有効です。
既に解説したように、離婚前においては、父母が共同で親権を行使し、どちらか片方の親のみが親権者となるということはありません(共同親権、民法第818条第3項)。
しかし、監護権に関しては、離婚前でも既に別居していれば、父母のどちらかが子供の面倒をみなければいけないため、離婚前に父母のどちらが監護権者となるのかを決めなければならないのです。
これをあらかじめ決めておく夫婦は少ないですが、早い段階で監護者を決めておくと、離婚後の生活環境の急激な変化による問題を避けられるでしょう。
いずれにせよ子供のことを第一に考えて監督保護を行う親権とそれを助けるべき存在である監護権は、子供のためを思ってよく考えて決める必要があります。
参照ページ
調停・訴訟がすべて終わるまでの目安期間 | 兵庫県西宮市の女性弁護士による法律相談はフェリーチェ法律事務所
公正証書について(協議離婚の場合) | 兵庫県西宮市の女性弁護士による法律相談はフェリーチェ法律事務所
3.4.親権と監護権をバラバラにしておくことのデメリットとは?
母が親権者、父が監護者といったようにそれぞれ個別に設定できるものですが、親権者監護者が同一でないと起こりうるデメリットもあるのです。
それが、子供の重大な怪我を治せなくなる恐れがあるということです。
この点について解説を加えておきます。
仮に、子供が交通事故に遭い重大な怪我を負い手術が必要になったとします。
父母が離婚せずにどちらも親権を持った状態であれば、どちらかが手術をすることに同意でき、手術は問題なくできます。
しかし、父母が離婚しており、親権者と監護者が個別になっていると、監護している側の同意だけでは手術は行うことが困難になるのです。
親権者が出張ですぐに駆け付けられない場合には、子供の手術を行うことができなくなることは、読者の皆さんもご想像できると思います。
親権者から同意を得ることなく勝手に手術するのは、かなりの緊急時でもない限り行われないため、迅速な治療とならない恐れがあることを知っておきましょう。
もっとも、親権者と監護者を個別にしておくメリットもあります。
既述のように、離婚の話し合いがスムーズになったり、親権者だけではなく監護者にも頼れるという子供の安心にもつながったりするため、切り離しておくことが一概には悪いとは言えません。
このようなメリット・デメリットもあるということを踏まえて親権者と監護者について決めていきましょう。
4.離婚問題に詳しい弁護士を起用することが解決の近道になる
この記事では、法律、とりわけ家族法に詳しくない読者でも理解しやすいように、平易な言葉を用いて解説してきました。
それでもなお「自分の理解が正確なのだろうか」という不安を覚える人もおられることでしょう。
また、知識自体は理解することができたとしても、いざ、実際に離婚に至り、子供の親権・監護権の帰属を決めるにあたり、どのようにして相手と交渉すればよいのか、については自信を持てない人が多いかもしれません。
そのような人は、ひとりで悩む必要は全くありません。
離婚時における親権や監護権の決定に詳しい弁護士に相談することをおススメします。
弁護士は、法律知識に加え、豊富な実務経験から得た知見を駆使して、相談者に最適な方法を提案してくれます。
読者の中には「弁護士に相談するのは敷居が高い」と思っている人がいるかもしれませんが、そのようなことはまったくありません。
特に離婚等の家族の問題を取り扱うことの多い弁護士は、相談者に負担をかけることなく、気さくに接してくれるものです。
参照ページ
離婚に強い弁護士とは | 兵庫県西宮市の女性弁護士による法律相談はフェリーチェ法律事務所
弁護士から見た離婚裁判を有利に進めるポイント | 兵庫県西宮市の女性弁護士による法律相談はフェリーチェ法律事務所
5.まとめ
この記事では、親権と監護権の違いや、親権者と監護者を分けて定める場合の注意点等を解説しました。
監護者は親権者をサポートするような役割になっており、親権者だけでは子供の養育に障害が出てしまう恐れを回避することができます。
片親の子として子供に心配を抱えさせることは少なくできるメリットが得られます。
ただし親権者と監護者を切り離しておく場合は、デメリットもあります。
子供の緊急を要する手術で同意ができないとなれば大事です。
監護者として離婚後も子供と大きな関わりがあるにも関わらず同意もできないとなるのは辛いことでしょう。
その点を踏まえて親権者と監護者についてよく話し合っておくべきなのです。