子供のいる夫婦が離婚する場合、養育費は大きな問題です。同じ金銭問題でも夫婦の過去を対象とした財産分与とは異なり、養育費は子供の将来を対象とします。父母各自の経済的事情の変化や子供の進路など不確定要素が多く、将来の不安からあらかじめ養育費を確保しておきたいと考えるのもうなずけます。
では、実際に養育費の一括払いは可能なのでしょうか。養育費の概説とその問題点に触れながら解説していきます。
養育費とは
養育費とは、子どもが社会人となるまでの衣食住、教育及び医療に要する費用をいいます。
親の義務
これを負担するのは親の義務です。たとえ離婚して親権を取れなかったとしても、親として子どもに対する扶養義務があることから、この養育費を負担しなければなりません。
養育費の仕組み
親が離婚する場合には、養育費について取り決めをするのが一般的です。取り決めがなされた場合、未成年の子どもは親に対して、扶養義務の履行として養育費を請求することができますが、実際には子どもの親権者が他方に対し、監護費用の分担として、子どもの養育費を請求することになります。
養育費の金額については、まずは父母間の話し合いによって決めます。話し合いによる合意が得られない場合には、調停や裁判で決めることになります。その際、父母の収入金額を基礎として家庭裁判所の算定表に基づいて算出していきます。具体的には、収入の少ない監護権者から、収入の多い非監護権者に対し、養育費を請求していくことになります。
養育費の支払方法
日々の子どもの生活費として支払われる養育費は、その性質上、毎月決められた額を支払うという定期給付方式が多く用いられます。
その支払態様は直接手渡しでもかまいませんが、通常は「支払った」という証拠が残りやすい銀行等の口座振込が用いられます。具体的には監護者が指定する口座や子ども名義の口座に振込みます。
このように支払態様に制限はありませんが、重要なのは確実に子供に支給されることです。
支払期間
養育費は親権に服する子を対象とするため、子が未成年者である間、毎月支払われるのが原則です。しかし、夫婦間で合意すれば、大学卒業まで、さらには大学院卒業までとすることもできます。
養育費の不払い
「離婚後しばらくは養育費が支払われていたが、その後、支払いが滞っている」という相談が多く寄せられます。実際、子どもが成人するまで支払われるのが約3割にも満たないというデータもあります。
不払いの原因
原因としては、以下の事情が考えられます。
- ・養育費を支払う方の収入の減少
- ・子どもとの面会回数が減って関係が疎遠になり、それに伴い養育費を払わなくなる
- ・再婚によって再婚後の家庭の生活費の負担が大きく、養育費にあてる余裕がなくなる 等
強制執行
養育費の支払いが滞った場合、強制執行が可能です。
強制執行の根拠
以下の場合に強制執行ができます。
- ・離婚協議公正証書を作成し、強制執行認諾文言を記載していた場合
- ・調停及び審判で養育費が決定された場合
差押え
事前に相手方の預貯金の金融機関、勤務先がわかっていれば、預貯金債権、給与債権を差し押さえて回収することになります。
給与債権については、通常の債権であれば4分の1までしか差し押さえできませんが、養育費の場合は、特別に2分の1まで差し押さえることができます。
財産開示・照会
相手が転職を繰り返して勤務先が不明の場合は、相手の財産を開示させるため裁判所へ呼び出すことができます。相手が出頭拒否、証言拒否をした場合には、近年の民事執行法改正によって、厚生年金機構、健康保険協会などに勤務先照会をかけて勤務先を確認することができるようになりました。
養育費の一括払い
以上のように、養育費については他の金銭債権よりも強固な回収手段が認められていますが、事実として不払いのおそれがある以上、毎月支払うという定期給付方式に代わって、あらかじめまとまった額を支払という一括払いができるのでしょうか?
合意があれば可能
養育費の支払方式については法律上特別な定めはありません。したがって、父母が話し合いの上合意すれば一括払いも可能です。逆に言うと、監護親が一方的に非監護親に一括で支払えとは請求できません。
合意が得られない場合、離婚調停さらには審判へと発展します。調停では一括払いが相当であるとの事情が認められれば調停が成立しますが、かなり限定的です。そして、審判では裁判所が一括払いを進んで認めることはまずありません。やはり養育費は定期金であり、毎月ごとに具体的な養育費支払請求権が発生すると考えているからです。
一括払いのメリット・デメリット
では、具体的に一括払いのメリット・デメリットとはどのようなものでしょうか?
メリット
監護親
- ・養育費が支払い義務者の経済状況に左右されにくい
- ・滞納の度に督促しなくてもすむ
- ・滞納がなくなるため、強制執行までして回収する必要がなくなる
- ・まとまったお金が入るため離婚直後の経済的な不安定を回避できる
- ・相手との交流の機会が減る
非監護親
- ・養育費を払っている以上、子供との面会を要求しやすい
- ・相手との交流の機会が減る
デメリット
監護親
- ・養育費全体の金額が低くなる
一括払いを求めると当然相手は値引きを交渉してきます。確実に今、お金を受の取りたいと望む場合にはある程度の減額に応じるのはやむを得ません。
- ・その後の増額請求が困難
一括払いではある程度の事情変更を前提にしている場合が多く、たとえば、養育費支払い義務者の収入が増えたとしても増額請求をしにくくなります。
- ・贈与税がかかる
毎月支払われる養育費は非課税ですが、その一括払いは額が大きくなるため、受け取った者が贈与税を支払わねばなりません。
非監護親
- ・監護権親が養育費以外の目的に費消、浪費してしまうおそれ
- ・その後の減額交渉が困難
たとえば、監護親がその後再婚、再婚相手と子どもが養子縁組を行った場合、本来であれば子どもの養育は養親となった再婚相手がするものでそれ以降の養育費の支払いは停止します。しかし、一括払いの場合余剰分の返金を求めるのは手間がかかり、実際にはこのような事情変更も折込済みとして、返金認められないのがほとんどです。
養育信託
このように養育費の一括払いには多くのメリット・デメリットがあります。そこで一括払いのメリットをいかしつつ、デメリットを回避する方法として養育信託があります。
養育信託とは、信託銀行が一括払いの養育費を預かり、定期的に子供に一定額の金銭を支払うというものです。
これによれば、通常の養育費と同じ扱いのため受け取る側には贈与税がかからない、他方、支払う側にとっても、月々決まった金額が支払われるため養育費が別の目的に浪費される危険を防ぐことができます。
まとめ
養育費の一括払いは裁判の場では認められにくいのが現状です。しかし一括払いを希望する方が少なくないのも事実です。そもそも一括払いを希望する背景には、養育費滞納、面会交流の不履行、相手の暴力への恐怖等とそれぞれが重大な問題です。一括払い(請求)さえすれば解決するわけではなく、抜本的に問題に対処する必要があります。離婚後の諸問題でお悩みの方は、まずはご相談ください。