離婚を検討している人の中には、いきなり離婚するのではなく一度別居してから冷静に考えるケースがよく見られます。離婚にあたって別居が必須というわけではありませんが、婚姻期間中の別居は、決して無意味なことではありません。では、離婚を視野に入れた別居にはどのような意義があるのでしょうか。
身を守るための別居
配偶者からの暴力やモラハラを受けている場合は、どのような理由があってもすぐに別居するべきです。加害者から離れて日々の暴力やモラハラに恐れる必要のない生活を送り、平常心を取り戻すことが先決だからです。
別居する際の転居先が決まらないときや引っ越し費用がないとき、かつ身の危険が迫っているときはシェルターを利用するなどして、安全の確保を優先しましょう。
冷却期間としての別居
ひとつ屋根の下で暮らし続けていると、相手の嫌なところばかり気になったり、喧嘩が増えたりして正常な判断ができなくなることがあります。そのようなときに別居すると、冷静な気持ちを取り戻し、結婚生活を振り返ると同時に今後の離婚について考える余裕も出てくるはずです。
離婚後の生活を想定できる別居
実際に離婚したらどのような生活になるのかを想定できます。仕事を始めたときのタイムスケジュールや、子どもがいる場合は送迎の時間など、同居のときにシミュレーションすることもできますが、別居してその生活ぶりを試した方がより現実的なものとなります。離婚した後の生活を始める前の「練習」にもなるでしょう。
別居は離婚のために必要な手段
別居をするからには、夫婦関係が破綻しているか破綻に近い状態であるケースがほとんどです。自分はどうしても離婚したくて、相手が離婚に反対している場合、調停での離婚になりますが、そこで重視されるのは「夫婦関係が破綻しているか」どうかということです。
離婚相談に来た方に弁護士が別居をすすめるのはこのためです。浮気やDVなどの決定的な離婚理由がなくても離婚したい場合、夫婦関係が破綻している実績があれば離婚しやすくなります。
なお、裁判で離婚するときは次の5つの理由のいずれかに該当しなければ離婚はできません。
- ①不貞行為があったとき
- ②悪意を持って結婚生活を放棄したとき
- ③3年以上生死不明の状態にあるとき
- ④重い精神病にかかったとき
- ⑤その他、婚姻生活を継続しがたい重大な理由があるとき
別居によって夫婦関係が破綻している場合、⑤が該当するかどうかが争われる可能性があります。もっとも、DVの被害を受けている、話し合いをしないまま別居が始まってしまったなど、客観的に見て夫婦関係が破綻していることが証明できるような事情があれば認定されるかもしれません。
別居する際に注意すること
いざ別居したいと思っても、すぐに別居の準備を進めてはいけません。別居は夫婦関係を見直すいい機会になりますが、次のようなデメリットがあることを忘れないようにしましょう。
①やり直しが難しい
一度別居を始めると、冷静な目線で相手のいいところも悪いところも見直す機会になります。物理的な距離が離れた結果として気持ちが離れてしまうこともあります。それは別居を申し立てられた側も同様で、相手が別居を従っているところに重点が置かれてしまい気持ちが冷めていくかもしれません。こちらの気持ちが変わって「再構築しよう」としても相手が合意できず、離婚になるケースも考えられます。
②逆に相手から離婚と慰謝料請求される可能性もある
別居を始めるタイミングを誤ると、こちらに不利な条件での離婚を迫られるリスクがあります。
例えば、置手紙を残して勝手に出ていった行為が「悪意の遺棄にあたる」または「同居義務違反だ」として、慰謝料を請求する可能性もあります。別居するタイミングを選ぶには慎重になるべきでしょう。
③別居期間中は財産分与の対象にならない
夫婦が離婚する際、婚姻期間中に2人で協力して築いた共有財産を分割する「財産分与」をします。ただ、別居が始まってから築いた財産は「共有財産」とは認められず、独自に築いた「特有財産」とみなされ、財産分与の対象外となります。
④婚姻費用分担請求できるが、生活水準が落ちる可能性も
離婚届を提出する前なら収入が少ない側が多い側に対し、婚姻費用請求ができます。別居していても夫婦であることに変わりはなく、お互いの生活を保持する「生活保持義務」があるとされているためです。
相手が請求に応じなければ、裁判所に「婚姻費用の分担請求」を申し立てましょう。調停で話がまとまらなければ審判で裁判所が婚姻費用を決定します。
別居の際は弁護士に相談を
別居の意義とリスクについてご紹介しました。
先述した通り、別居するにもタイミングが重要で、いきなり別居を始めればすぐに離婚できるというものではないのです。離婚の前段階として別居を検討している方は、離婚に詳しい弁護士に相談しながら進めていくと良いでしょう。