遺言が取り消される場合とは?NG例を徹底解説
一般的に遺言書は、故人の意志を後世に伝えるものとして、大切に扱われますよね。遺産の相続や分割において強い効力を持つ遺言書ですが、一定の条件下では取り消されることをご存じでしょうか。ここでは遺言書が取り消される条件について解説します。
遺言書が取り消されるのはどのようなとき?
遺言書にはいくつかのルールがあり、ルールを守っていない遺言書は取り消されることになります。つまり、「無効」と判断されるわけですね。では、どういったケースで無効と判断されるのか、順にみていきましょう。
形式が守られていないケース
遺言書は、基本的に自由に作成できるものの、民法で定められたルールを守っていないと無効になることが多いです。そのルールとは、以下のようなものです。
・全文が自筆になっていない
・日付、氏名、押印がセットになっていない(いずれかが欠けている)
・訂正や加筆、削除の形式が守られていない
形式的なルールについては、以下の条文で規定されています。
“民法第968条 (自筆証書遺言)
1.自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2.自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。”
“民法第970条 (秘密証書遺言)
1.秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
2.第968条第二項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。”
遺留分が考慮されていないケース
相続では、一部の法定相続人に対し「必ずこの分だけは受け継ぐことができる」という最低ラインを決めた「遺留分」が存在します。この遺留分を全く考慮していない遺言書は取り消される可能性があります。
日付が最新ではないケース
遺言書を複数作成したときに注意すべきなのが「日付」による判断です。遺言書は原則として「最新の日付の内容が優先される」と考えてください。つまり、1年前に作成した遺言書Aと、直近で作成した遺言書Bの内容が一部異なるとき、遺言書Aの内容は取り消されることになります。民法では1023条の1項に記載があります。
“第1023条 (前の遺言と後の遺言との抵触等)
1.前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2.前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。”
実際に残っている財産が異なるケース
遺言書を作成したあとに、その中に記載している財産を勝手に処分してしまった場合などが該当します。目録には「車、不動産……」などと記載があるにも関わらず、実際には車が売却されていれば、車についての記載部分は取り消されると考えてください。こちらは1023条2項に記載されています。
“第1023条 (前の遺言と後の遺言との抵触等)
2.前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。”
被相続人の判断能力が正常ではないと認められるケース
第三者からの脅迫、詐欺などによって作成された遺言書は無効です。また、遺言書を作成した被相続人が、遺言書の内容や結果をしっかり把握できる判断能力が無かった場合も、遺言書が取り消されます。
本人の判断能力については医師の診断書や意見書、看護記録から推測することが多いです。
これについては、民法963条に規定があります。
“第963条
遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。”
被相続人は遺言書を正常に作成するための能力(遺言能力)を持っていなくてはならないことに注意が必要です。高齢で認知症を発症している場合は、特にこの遺言能力が問題になりがちですので、ぜひ弁護士へ相談してみてください。
遺言作成者が15歳未満であるケース
民法上、「遺言」ができるようになるのは15歳からです。したがって、15歳未満の者が作成した遺言書は取り消しとなります。
遺言書の作成・取扱いには専門知識が必要
以上、遺言書が取り消されるケースについて解説しました。遺言書は、しっかりと効力を発生させるために、一定の知識が必要です。今回紹介した内容からもわかるとおり、意外と盲点が多く、念入りに作成したつもりが「無効」と判断されることも少なくありません。
遺言書の作成や取り扱いについて不安を感じたときは、ぜひ相続に詳しい弁護士に相談してみてください。