相続放棄して誰も引き取り手がいなくなった財産はどうなるの?
相続財産に借金が含まれている場合に「相続放棄」を選択する方法があります。
しかし、全ての相続人が相続放棄を選択し、引き取り手がいなくなった財産の行方をご存じでしょうか。今回は、相続放棄後の引き取り手がいなくなった財産について解説します。
相続放棄で引き取り手がいなくなる=国のもの?
相続放棄は、「もともと相続人ではなかった」という意味になるため、他の相続人に相続権が移ります。しかし、相続放棄を選択されるくらいですから、他の相続人も相続したくない可能性が高いわけですね。つまり、相続人が次々に相続放棄を選択し、最終的には誰も引き取り手がいない状態になります。このように「宙に浮いたような財産」は、最終的に国のものになります。これを専門用語で「国庫帰属」と呼びます。
国庫帰属に至るまでのプロセスは?
相続人全員が相続放棄した財産は、まず「相続財産法人」という法人格のもとに管理されます。財産が法人化される…というとイメージしづらいかもしれませんが、これは民法951条で規定されているルールです。
“第951条 (相続財産法人の成立)
相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。”
さらに相続財産法人は「相続財産管理人」によって管理されます。このとき相続財産管理人は、漏れがないか(相続権や債券をもった人間がいないか)を調査します。調査の結果、相続する者がいないとなれば、債権者に対して請求を申し出るよう通知します。
○国庫帰属までのステップ
・相続放棄された財産が相続財産法人になる
・家庭裁判所が相続財産管理人を選任する(利害関係人の請求により)
・相続財産管理人が選ばれたことを公に知らせる(相続財産管理人の選任公告、期間は2ヶ月)
・債権者がいないか調査する(相続債権者捜索の広告、2か月)
・他に相続人がいないかを調査する(相続人捜索の広告、6か月)
もし債権者や相続人がいた場合、財産のプラス部分から清算し、分配されます。また、特別縁故者がいる場合は、財産分与も行われます。このように、債権者・相続人・特別縁故者に分配したあとで残った部分が国庫帰属になるわけです。
※特別縁故者とは…
「 被相続人と生計を同じくしていた者」「被相続人の療養看護に努めた者」「これら2つに準じて特別の縁故があった者」
血縁者以外の友人・知人・内縁の妻など
相続財産管理人選任は弁護士に依頼すべき
このように、相続人全員が相続放棄を選択しても、最終的には国のものになります。
しかし、もし自分が債権者だったり特別縁故者だったりする場合は、相続財産管理人の選任を申し立てることもあるでしょう。ただし、相続財産管理人選任の申し立ては、法律の素人にはややハードルが高い手続きです。膨大な量の戸籍謄本を確保し、種々の雑務をこなしつつ、申し立てを行うからです。ちなみに、申し立てに必要な書類には次のようなものがあります。
○相続財産管理人選任手続き申立てに必要な書類
1.申立書
2.利害関係説明図
3.被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍・原戸籍)謄本
4.その他被相続人の相続人が存在しないことを明らかにする戸籍謄本(※)
5.被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
6.相続財産管理人候補者の住民票または戸籍の附票
7.被相続人の遺産目録
8.被相続人の遺産を明らかにする資料(不動産登記簿謄本および固定資産評価証明書、預金残高証明書)
9.申立人と被相続人との利害関係を証する資料(戸籍謄本、金銭消費貸借契約書等)
10.申立人の住民票
特に労力が必要なのが、3の「被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍・原戸籍)謄本」です。被相続人が一生涯同一の住所で生活していれば良いのですが、実際には「被相続人が住んでいた場所全ての戸籍謄本」が必要なため、大変な労力になります。
そのため、弁護士に戸籍謄本の収集代行を依頼するのが一般的です。もし相続放棄で行き場がなくなった財産の利害関係人ならば、相続に強い弁護士に相談することをおすすめします。