財産分与の協議において、相手が財産の全体を明らかにしないという状況が生じることがあります。提示された内容が、これまでの収入から考えて少なすぎるという場合です。
財産分与は、開示された財産だけを対象として進むわけではありません。把握されていない財産があるのであれば、調査によって明らかにする手段が用意されています。
この記事では、財産を調査する方法、それぞれの使い分け、調査の限界、調査を進めるうえでの前提となる情報について整理します。
① 調査の前提として必要な情報
どの調査方法を用いる場合でも、まったく手がかりのない状態から財産を見つけ出すことはできません。ある程度の情報が必要となります。
| 財産の種類 | 調査に必要となる情報 |
|---|---|
| 預貯金 | 金融機関名と支店名。口座番号までは不要なことが多い |
| 不動産 | 所在地。登記から名義や抵当権の状況を確認できる |
| 保険 | 保険会社名 |
| 株式・投資信託 | 証券会社名 |
| 退職金 | 勤務先の名称 |
金融機関名すらわからない場合、すべての金融機関に照会をかけることは現実的ではありません。そのため、同居中に把握できる情報を確認しておくことが、後の調査を可能にします。
同居中に確認しておきたいもの
- 郵便物に記載された金融機関名、保険会社名、証券会社名
- 通帳やカードの保管場所
- 給与明細に記載された振込先
- 確定申告書の控え
- スマートフォンに入っている金融機関のアプリ
なお、相手の所持品を無断で調べる、スマートフォンのロックを解除して内容を見るといった行為は、問題を生じさせるおそれがあります。目に入る範囲で確認するにとどめることが望まれます。
② 弁護士会照会
弁護士法23条の2に基づく制度で、弁護士が所属する弁護士会を通じて、公私の団体に対して情報の提供を求めるものです。
どのような場面で使えるか
受任している事件について必要がある場合に利用できます。財産分与の交渉や調停を進めるなかで、相手名義の預貯金の残高を確認するといった場面が想定されます。 裁判所の手続きを経ていない段階でも利用できる点が、後述する調査嘱託との違いです。協議の段階から調査を進められます。
照会に応じてもらえるとは限らない
照会を受けた団体には、報告する公的な義務があるとされています。もっとも、実際には回答を拒まれることもあります。 金融機関の対応は一様ではなく、取引の有無のみを回答する、残高までは回答しないといった取り扱いがなされることもあります。 回答が得られなかった場合には、調停や訴訟の手続きのなかで、あらためて調査嘱託を申し立てるという流れになります。
③ 調査嘱託
裁判所が、団体や官公署に対して必要な調査を依頼する手続きです。調停や訴訟が係属していることが前提となります。
弁護士会照会との違い
| 比較項目 | 弁護士会照会 | 調査嘱託 |
|---|---|---|
| 主体 | 弁護士会 | 裁判所 |
| 前提 | 事件を受任していること | 調停や訴訟が係属していること |
| 回答の得やすさ | 拒まれることもある | 応じられることが多い |
| 利用の時期 | 協議の段階から可能 | 手続きの開始後 |
裁判所からの嘱託であるため、弁護士会照会と比べて回答が得られやすい傾向があります。金融機関の預貯金残高についても、応じられることが多くあります。
申立ての流れ
調停や訴訟のなかで、調査嘱託の申立てを行います。何を明らかにするために、どの団体に対して、どのような事項を照会するのかを特定して申し立てることになります。 裁判所が必要性を認めれば、嘱託が行われます。漠然と財産があるかもしれないという理由では認められず、一定の根拠を示すことが求められます。
基準日の指定
預貯金の残高については、いつの時点のものを照会するかが重要となります。財産分与の基準時は原則として別居時とされるため、別居日時点の残高を照会することが一般的です。 あわせて、その前後の取引明細を照会することで、別居直前の出金の有無を確認できる場合があります。
④ 自分で調べられること
専門的な手続きによらずに確認できる事項もあります。
不動産の登記事項証明書
所在地がわかれば、誰でも法務局で取得できます。名義人、抵当権の設定状況、いつ取得したものかを確認できます。 オンラインでの取得も可能です。相手名義の不動産について、住宅ローンがどの程度残っているかを推測する手がかりにもなります。
固定資産の情報
市区町村では、固定資産課税台帳に記載された内容を確認できる制度があります。配偶者であれば、相手名義の不動産について閲覧できる場合があります。 取り扱いは自治体によって異なりますので、窓口で確認されるとよいでしょう。
会社の登記
相手が会社を経営している場合、法務局で登記事項証明書を取得することで、役員の構成や資本金を確認できます。 会社の財産そのものは、個人の財産とは別のものとして扱われます。もっとも、実質的に個人の資産と一体であると評価される場合もあり、事案によって判断が分かれます。
⑤ 調査には限界がある
これらの手段を用いても、すべての財産を把握できるとは限りません。
把握が難しいもの
- 現金として保管されているもの
- 貸金庫に預けられているもの
- 金融機関名がまったくわからない口座
- 暗号資産(取引所名がわからない場合)
- 親族名義に移されたもの
調査によって把握できる範囲には限りがあります。 すべてを明らかにすることを目指すよりも、把握できた財産をもとに、どのような解決が現実的かを検討することになる場合もあります。 相手の不誠実な対応そのものが、協議のなかで考慮される場合もあります。
別居直前の出金
別居の直前にまとまった額が引き出されているという事案は少なくありません。 この場合、その出金が生活費として使われたのか、財産を減らす目的でなされたのかが問題となります。使途について合理的な説明ができない場合には、その金額が依然として存在するものとして扱われることがあります。 取引明細を取得し、出金の時期と金額を整理することが、この主張の出発点となります。
使途の説明が求められる
引き出された金銭について、相手が生活費に充てたと説明することがあります。この場合、金額の妥当性が検討されることになります。 日常の生活費として通常考えられる範囲を大きく超える額であれば、説明として十分でないと判断される余地があります。一方、まとまった支出の予定があったという事情が示されれば、認められることもあります。 こちらとしては、当時の生活実態を示すことで、その説明が成り立たないことを主張していくことになります。
⑥ 開示を求める方法
調査によらず、相手に開示を求めるという方法もあります。
協議のなかでの求め
まず、財産の一覧を示すよう求めることになります。相手が誠実に対応するのであれば、この段階で解決します。 求めたにもかかわらず応じないという経過そのものが、後の手続きにおいて相手の姿勢を示す事情となります。やり取りは記録に残しておくことが望まれます。
調停における求め
調停では、双方が財産目録を提出することが求められます。裁判所から提出を促されることで、協議の段階では応じなかった相手が開示に応じる場合もあります。 提出された内容に不足があると考えられる場合には、その理由を説明したうえで、追加の開示や調査嘱託を求めることになります。
文書提出命令
訴訟においては、相手が所持する文書の提出を命じるよう申し立てる制度があります。要件は限られますが、特定の文書の存在が明らかである場合には検討の余地があります。
⑦ 財産の種類ごとの確認事項
財産の種類によって、確認すべき内容が異なります。
退職金
すでに支給されている場合には、振込先の口座を確認することになります。まだ支給されていない場合でも、婚姻期間に対応する部分は分与の対象となります。 勤務先の退職金規程を確認することで、現時点で退職したと仮定した場合の支給見込額を算出できます。規程の開示を求めるか、調査嘱託によって確認することになります。
保険
解約返戻金のある保険は分与の対象となります。保険会社名がわかれば、照会によって基準日時点の解約返戻金額を確認できます。 保険証券が見つからない場合でも、口座からの引き落とし履歴から保険会社名を特定できることがあります。
確定拠出年金
企業型の確定拠出年金や個人型(iDeCo)についても、婚姻期間中の拠出分は分与の対象となります。 ただし、これらは原則として60歳まで引き出すことができません。そのため、他の財産で調整する形をとることが多くあります。
暗号資産
取引所を利用している場合には、取引所名がわかれば照会の対象となります。一方、個人で管理されている場合には、把握が難しくなります。 確定申告の内容から、取引の存在が判明することもあります。
⑧ 離婚後に発覚した場合
離婚が成立した後になって、把握していなかった財産の存在が明らかになることがあります。
2年以内であれば請求できる
財産分与の請求は、離婚の成立から2年以内であれば行うことができます。この期間内であれば、新たに判明した財産について、あらためて分与を求めることが可能です。
清算条項がある場合
離婚協議書や調停調書に、今後互いに請求しないという清算条項が設けられている場合には、追加の請求が難しくなります。 もっとも、相手が意図的に財産を隠していたという事情がある場合には、清算条項の効力が及ばないと判断される余地があります。当時の経緯と、なぜ把握できなかったのかを整理したうえで検討することになります。
⑨ よくあるご質問
Q. 相手の預金口座を自分で調べることはできますか。
A. 本人以外が金融機関に問い合わせても、口座の有無や残高を教えてもらうことはできません。弁護士会照会や調査嘱託といった手続きを通じて確認することになります。
Q. 金融機関名がわからない場合はどうなりますか。
A. 照会には金融機関名の特定が必要となるため、まったく手がかりがない状態では調査が難しくなります。給与の振込先や、公共料金の引き落とし口座など、把握できる範囲から手がかりを探すことになります。
Q. 相手が財産を親族名義に移していた場合は。
A. 名義が他人に移されている場合、その財産を直接の対象とすることは難しくなります。もっとも、移転の時期や経緯によっては、実質的には相手の財産であると主張する余地があります。移転を示す資料が得られるかどうかが検討の前提となります。
Q. 調査にはどのくらいの期間がかかりますか。
A. 弁護士会照会では、申出から回答まで1か月から2か月程度を要することが一般的です。調査嘱託についても同程度です。複数の照会を行う場合には、それだけ期間が延びることになります。
まとめ
相手の財産を調査する方法について、本記事で整理した内容を振り返ります。
- 調査には、金融機関名や勤務先といった一定の情報が必要となる
- 同居中に把握できる範囲で、手がかりとなる情報を確認しておくことが後の調査につながる
- 弁護士会照会は協議の段階から利用できるが、回答が得られないこともある
- 調査嘱託は裁判所からの依頼であり、回答が得られやすい傾向がある
- 不動産の登記事項証明書は、所在地がわかれば誰でも取得できる
- 現金や貸金庫の中身など、把握が難しい財産もある
- 離婚後2年以内であれば、新たに判明した財産について請求できる場合がある
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