離婚で最も感情的になりやすいのが「子どもの親権」をめぐる問題です。「子どもは私と一緒にいたいと言っている」「相手が子どもを連れて出て行ってしまった」——こうした状況は、離婚の現場で日常的に起きています。
親権争いでは、「子どもの意思」がどの程度重視されるのか、また別居の際に子どもを一方の親が連れて出ることは法的にどう扱われるのかという2点が、特にトラブルになりやすいテーマです。
本記事では、子どもの意思が親権判断に与える影響・年齢ごとの考え方・連れ去りとは何か・連れ去られた場合の対処法・弁護士に相談すべきタイミングまで、西宮市・尼崎市を中心に離婚案件を手がけるフェリーチェ法律事務所の弁護士が詳しく解説します。
① 親権とは何か——身上監護権と財産管理権
まず、親権の基本的な内容を確認しておきましょう。親権とは、未成年の子どもを養育・監護し、その財産を管理するために親が持つ法律上の権利と義務の総称です。大きく「身上監護権」と「財産管理権」の2つに分けられます。
身上監護権は、子どもを手元に置いて日常の養育・教育を担う権利です。どこに住むか・どの学校に通うか・どのような医療を受けるかといった子どもの生活全般の決定権が含まれます。財産管理権は、子どもの財産を管理し、子どもに代わって法律行為を行う権利です。
離婚後の親権争いで実質的に問題になるのは、主にこの「身上監護権」——つまり子どもを手元で育てる権利——をどちらが持つかです。裁判所が親権者を決める際には、複数の要素を総合的に評価しますが、その中でも特に重要なのが「子どもの意思」と「監護の継続性」です。
② 親権判断における「子どもの意思」の重み
離婚調停や裁判で親権が争われるとき、「子どもがどちらの親と暮らしたいか」という意思は、裁判所の判断に影響します。ただし、その影響の大きさは子どもの年齢によって大きく異なります。
年齢別・子どもの意思の扱われ方
| 年齢の目安 | 子どもの意思の扱われ方 |
|---|---|
| 0〜5歳(乳幼児) | 意思確認はほぼ行われない。主たる養育者(多くは母親)との継続性が重視される。 |
| 6〜9歳(小学校低学年) | 意思を聴くことはあるが、判断材料として軽く扱われる。親への忖度や誘導の影響を受けやすいため慎重に評価される。 |
| 10〜12歳(小学校高学年) | 意思が判断材料として考慮される。理由の合理性・一貫性が確認される。 |
| 13〜14歳(中学生) | 意思が重要な判断要素のひとつになる。理由が明確であれば相当程度尊重される。 |
| 15歳以上 | 家庭裁判所は意見を聴くことが法律上義務づけられている(家事事件手続法65条)。本人の意思が最も強く尊重される。 |
15歳以上の子どもについては、家庭裁判所が親権者を決める際に子どもの意見を聴くことが法律上の義務です。
ただし、「子どもがそう言っているから必ずその通りになる」というわけではなく、あくまで重要な判断要素のひとつとして扱われます。
子どもの意思が一貫していて、その理由が合理的であるほど、裁判所の判断に反映されやすくなります。
③ 「子どもの意思」をめぐるトラブル
トラブル① 親が子どもに「こっちと暮らす」と言わせようとする
親権争いが激化すると、一方の親が子どもに「お父さん(お母さん)と暮らしたいって言ってね」と誘導・プレッシャーをかけるケースがあります。特に年齢の低い子どもはこうした影響を受けやすく、「どちらかを選ばなければならない」という状況に置かれることで心理的に大きなダメージを受けます。
裁判所の調査官(家庭裁判所調査官)は、子どもの意思聴取の際に、こうした誘導の影響がないかどうかを丁寧に確認します。子どもの言葉が親の意向の受け売りであると判断された場合は、その意思は軽く扱われます。子どもに「どちらかを選ぶよう」プレッシャーをかけることは、子どもの精神的健康を害するだけでなく、親権判断においてもマイナスに評価されることがあります。
トラブル② 子どもが「あっちには行きたくない」と言っている
片方の親が「子どもが相手のところには行きたくないと言っている」と主張して、面会交流を拒否したり、相手との接触を遮断したりするケースがあります。
しかし、子どもが「行きたくない」と言う背景には様々な事情があります。親の影響で言わされている・面会交流の環境が整っていないだけで本当は会いたい・DVや虐待のある環境を嫌がっているなど、理由によって対応がまったく異なります。「子どもが嫌だと言っているから」という理由だけで面会交流を一方的に拒否すると、後の親権・監護権の判断でマイナスに働く可能性があります。
トラブル③ 子どもの意思と裁判所の判断が一致しない
子どもが「お父さんと暮らしたい」と言っているのに、裁判所が母親に親権を認める——こうした結果が出ることもあります。裁判所は子どもの意思だけを判断材料にするわけではなく、これまでの養育実績・生活環境の安定性・兄弟姉妹との関係・各親の養育能力なども総合的に考慮します。「子どもの意思が一番大切」というのは正しいのですが、それだけで親権が決まるわけではないという点は理解しておく必要があります。
④ 「子どもの連れ去り」とは何か
離婚協議や調停の最中に、一方の親が子どもを黙って連れて出てしまう行為を「子どもの連れ去り」と呼びます。別居を始める際に子どもを連れて出ることは、現実には珍しくありませんが、その方法や状況によっては法的に問題のある行為になりえます。
連れ去りが問題になる典型的なパターン
- 相手に何も告げずに子どもを連れて夜中に家を出る
- 学校から子どもを連れ去り、相手に連絡しない
- 一方的に子どもを遠方に移し、住所を知らせない
- 相手が面会中の子どもをそのまま返さない
- DV・虐待からの緊急避難ではなく、親権争いを有利にするための意図的な連れ去り
連れ去りが「違法」になるかどうかの判断
日本の法律上、別居開始時に子どもを連れて出ること自体は、ただちに違法とはなりません。しかし、相手の監護権を侵害する態様で行われた場合や、その後に子どもを相手に会わせないなどの行動が続く場合には、未成年者略取罪(刑法224条)に問われる可能性があるとする考え方もあり、近年は裁判所も厳しく見る傾向があります。
また、たとえ刑事事件にならなくても、強引な連れ去りは親権・監護権の判断において「相手方の監護権を尊重しない親」として、マイナスに評価されることがあります。「先に連れて出た方が有利」という考えが以前はありましたが、現在の裁判実務ではその評価が変わってきています。
⑤ 子どもを連れ去られたときの対処法
相手が子どもを連れて出てしまい、居場所を教えてくれない・子どもに会わせてくれないという場合、一刻も早く法的な対応を取ることが重要です。時間が経つほど「現状の監護が継続している」と評価されて不利になるリスクがあります。
対処法① 子の引渡し・監護者指定の審判を申し立てる
家庭裁判所に「子の監護者指定の審判」と「子の引渡しの審判」を申し立てることができます。これによって、裁判所が仮の監護者を指定し、子どもを引き渡すよう命じることができます。さらに緊急性が高い場合は「審判前の保全処分」を申し立てることで、本案の審判が確定する前に仮の引渡し命令を得られる場合があります。
対処法② 人身保護請求
子どもが相手によって違法に監禁・拘束されている状態と言える場合は、裁判所に「人身保護請求」を申し立てることができます。手続きが迅速に進む反面、「違法な拘束」と認められる必要があるため、適用できるケースは限られます。
対処法③ 警察への届出・相談
相手が子どもの居場所を一切知らせない・緊急性があると判断される場合は、警察に相談することも選択肢のひとつです。ただし、民事事件(離婚・親権争い)として扱われることが多く、警察が積極的に介入するケースは限られています。
子どもを連れ去られたらすぐに動いてください。
「しばらく様子を見よう」と時間を置くほど、相手の監護実績が積み上がり、裁判所が現状を追認しやすくなります。
連れ去りを知ったその日のうちに弁護士に相談し、審判の申立てを検討することをお勧めします。
⑥ 連れ去りを防ぐために——別居前にできること
連れ去り被害を防ぐためには、別居前の段階から準備しておくことが有効です。すでに相手が連れ去りを示唆するような発言をしている・DVや感情的な対立が激しい場合は、特に早めの対策が重要です。
学校・保育園への連絡
別居と同時に、子どもの通う学校や保育園に「相手方が子どもを無断で連れて行こうとした場合は引き渡さないよう」お願いしておくことが有効です。学校側は原則として両親のどちらにも引き渡しを断ることはできませんが、事情を説明することで協力を得やすくなります。
弁護士を通じた事前の取り決め
別居を開始する前に、弁護士を通じて「子どもの居所・面会交流のルール」について合意書を作成しておくことで、相手が一方的に動きにくい状況を作ることができます。合意書がなくても、メール・LINEでやり取りした記録が後の証拠になることがあります。
監護者の指定を先に申し立てる
連れ去りのリスクが高い場合は、先手を打って家庭裁判所に「子の監護者の指定」の審判を申し立てることも有効な手段のひとつです。審判が係属中であることが、相手の一方的な行動を抑止する効果を持つことがあります。
⑦ よくある質問
Q. 子どもが「お母さんと暮らしたい」と言っています。これで親権は決まりますか?
A. 子どもの意思は親権判断において重要な要素ですが、それだけで決まるわけではありません。特に10歳未満の場合は、子どもが誰かの影響を受けていないかどうかも含めて慎重に評価されます。15歳以上になると意思が強く尊重されますが、それでも養育実績・生活環境の安定性・兄弟姉妹との関係なども考慮されます。「子どもがそう言っているから大丈夫」と油断せず、総合的な準備を進めることをお勧めします。
Q. 相手が子どもを連れて家を出ました。すぐに警察を呼んでもいいですか?
A. 親権争いの文脈での連れ去りは民事上の問題として扱われることが多く、警察が即座に動いてくれるとは限りません。まずは弁護士に相談して、子の引渡し・監護者指定の審判(審判前の保全処分を含む)を申し立てることが最も現実的かつ有効な対応です。警察への届出は並行して行うことはできますが、それだけに頼ることには限界があります。
Q. 私が子どもを連れて別居を始めましたが、問題になりますか?
A. 別居する際に子どもを連れて出ること自体がただちに違法とはなりませんが、その後に相手に子どもの居場所を知らせない・面会交流を一切拒否するという状態が続くと、親権・監護権の判断でマイナスに評価されるリスクがあります。できれば事前または直後に相手に連絡し、子どもの安全と面会交流の機会を確保することを伝えておくことをお勧めします。
Q. 子どもが「お父さんのところには行きたくない」と言っています。面会交流を断ってもいいですか?
A. 子どもの拒絶の背景にDVや虐待がある場合は、面会交流の停止・制限が認められることがあります。しかし、そうした事情がなく単に子どもが嫌がっているだけの場合に面会交流を一方的に拒否すると、親権・監護権の判断においてマイナスに評価されるリスクがあります。「面会させたくない」という判断をする前に、まず弁護士に状況を相談してください。
まとめ
子どもの親権をめぐる問題は、感情的になりやすい反面、法的な知識と冷静な対応が結果を大きく左右します。本記事の要点を振り返ります。
- 子どもの意思は年齢が上がるほど親権判断に強く反映される(15歳以上は聴取が法律上の義務)
- ただし子どもの意思だけで親権は決まらない——養育実績・生活環境・兄弟関係なども総合考慮される
- 子どもに「こちらと暮らしたいと言わせる」誘導行為は裁判所に見抜かれ、マイナス評価になりうる
- 連れ去りは必ずしも違法とはならないが、強引な手法や居場所の隠匿は親権判断でマイナスに働く
- 子どもを連れ去られたら時間を置かず、子の引渡し・監護者指定の審判を申し立てる
- 連れ去りを防ぐには、別居前に学校への連絡・弁護士との事前取り決め・監護者指定の先行申立てが有効
「子どもが相手に連れ去られた」「相手が子どもを返してくれない」「親権争いで子どもの意思をどう活かせばいいかわからない」——こうした問題は、時間が経つほど不利になるケースがほとんどです。一日も早く弁護士にご相談いただくことをお勧めします。





