2026年4月から始まった共同親権制度について、「制度のことはなんとなくわかったけれど、実際の生活でどんな問題が起きるのかがよくわからない」という声が増えています。「子どもを転校させたいが、元夫の同意が必要なのか」「子どもが急病で手術が必要になったとき、サインはどちらがするのか」「相手が何も決めさせてくれない場合はどうすればいいのか」——こうした具体的な疑問に答える情報はまだ十分に広まっていません。
共同親権は「すべての決定に元配偶者の合意が必要になる制度」というイメージを持つ方が多いのですが、民法上は「単独で決められること」と「二人で合意が必要なこと」が明確に区別されています。この区別を正確に理解することが、共同親権の下で安心して日常生活を送るための出発点になります。
本記事では、共同親権における単独行使ができる場面と合意が必要な場面の具体的な整理・転居・医療・進学など実際に問題になりやすい場面別の解説・意見が対立したときの解決手段・単独親権を選ぶべき状況まで、西宮市・尼崎市を中心に離婚案件を手がけるフェリーチェ法律事務所の弁護士が詳しく解説します。
① 共同親権の基本——「合意が必要な場面」と「単独で決められる場面」
共同親権が選ばれた場合でも、すべての育児判断に元配偶者の合意が必要になるわけではありません。民法824条の2は、親権行使について「監護教育に関する日常の行為」は単独で行えると定めています。
つまり、日常の子育てに関わる判断のほとんどは、実際に子どもと一緒に暮らしている「監護者」が単独で行えます。問題になるのは、子どもの将来や生活環境に大きな影響を与える「重要な事項」です。ここでは父母双方の合意が必要とされます。
この区別を知らないまま共同親権の生活に入ると、日常の些細な判断ひとつひとつに元配偶者の同意が必要だと誤解してしまい、必要以上のストレスや対立が生まれることがあります。以下でそれぞれの内容を整理します。
② 単独で決められることと、合意が必要なこと
| 単独で決められること(日常の監護教育) | 父母の合意が原則必要なこと |
|---|---|
| 子どもの食事・服装・日常の生活習慣の決定 | 子どもの居所の変更・他市区町村への転居 |
| 通塾・習い事・放課後の過ごし方の選択 | 進学先の決定(公立・私立・転校・退学など) |
| 日常的な医療行為(かかりつけ受診・予防接種) | 心身に重大な影響を与える医療行為(手術・精神科治療など) |
| 短期間の旅行・学校行事への参加 | 子ども名義の預貯金の開設・出金・財産処分 |
| 高校生の放課後アルバイトの許可 | 15歳未満の子どもの養子縁組の代諾 |
| DVや虐待から逃げるための緊急の転居 | 15歳未満の子どもの氏の変更 |
ポイント:「監護者」に指定された親は、日常的な監護教育・居所の指定を単独で行うことができます。
共同親権を選ぶ場合でも、離婚時に「監護者の指定」をあわせて決めておくことで、日常生活のトラブルを大幅に減らすことができます。
監護者を定めずに共同親権になると、日常のことでも「合意が必要か」と迷う場面が増えるため、必ず離婚協議の段階で決めておくことをお勧めします。
③ 実際の場面別——具体的にどう決める?
【転校・転居】相手が同意してくれない場合
仕事の都合・実家への帰省・住環境の改善などの理由で引越しが必要になっても、転居は「子どもの居所の変更」にあたるため、原則として元配偶者の同意が必要です。
話し合いで合意できない場合、家庭裁判所に「特定事項の親権行使者の指定」を申し立てることができます。裁判所が、転居することが子どもの利益になるかどうかを判断し、どちらかの親に決定権を与えます。
ただし、DVや虐待から逃れるための転居については「急迫の事情」があるとして、相手の同意なしに単独で行動することが認められています。安全の確保が最優先であり、この場合は保護命令の申立てと合わせて、弁護士に早急に相談することをお勧めします。
【緊急の医療・手術】相手に連絡がつかない場合
共同親権になって最も心配される場面のひとつが「子どもの緊急手術が必要になったとき、相手の同意なしに進めていいのか」という問題です。
民法上、「急迫の事情がある場合」は一方の親権者が単独で行動できると定められています(民法824条の2第1項1号)。救命が必要な緊急手術については、この「急迫の事情」に該当するとして単独でサインできると解されています。緊急性がない計画的な大きな手術(整形・矯正など)については、事前に相手の同意を得る手順を踏むことが必要です。
「緊急かどうかの判断が難しい」という場面では、医療機関のスタッフや弁護士に相談しながら進めることが安全です。日頃から「緊急時の連絡ルール」を元配偶者と取り決めておくことが、最大のトラブル防止策になります。
【進学・受験】相手と意見が食い違う場合
子どもをどの中学・高校・大学に進学させるかは、「子どもの将来に重大な影響を与える監護教育」として父母双方の合意が必要な事項に分類されます。「公立にするか私立にするか」「受験させるかどうか」「どの学校を受けるか」なども対象になりえます。
しかし実際問題として、合格後に入学手続きの締め切りが数日後に迫っている場合まで相手の合意を待ち続けることは現実的ではありません。このような「緊急の事情」がある場合は、単独で手続きを進めることが認められる余地があります。
こうしたトラブルを未然に防ぐには、「子どもの教育方針について大まかな合意を離婚時に形成しておく」ことが最も有効な対策です。離婚協議書や公正証書の中に「進学に関する基本方針」を記載しておくと、後の争いを防ぎやすくなります。
④ 意見が対立したときの法的な解決手段
共同親権者である父母の間で意見が対立し、話し合いだけでは解決できない場合、家庭裁判所の手続きを利用することができます。状況に応じて適切な手続きを選ぶことが重要です。
| 手続きの種類 | 内容 | こんな場面で使う |
|---|---|---|
| 監護者の指定 | 子どもを日常的に養育する「監護者」を決める。監護者は日常の監護・居所指定を単独で行える。 | 共同親権になったが、実際に子どもと暮らす親を明確に決めたい場合 |
| 監護の分掌 | 父母が養育を役割分担する制度(例:平日は母・週末は父)。当事者間でも決められる。 | 子どもが両方の親と生活する形を取り決めたい場合 |
| 特定事項の親権行使者指定 | 特定の重要事項について、決定権を持つ親を家庭裁判所が指定する。 | 転居・進学など特定の問題で合意できない場合 |
| 親権者の変更 | 共同親権→単独親権、または単独→共同へ変更する申立て。 | 状況が大きく変わり、現在の親権の形を変える必要がある場合 |
アドバイス:共同親権を選ぶ場合、離婚協議書や公正証書の中に以下を盛り込んでおくことで将来のトラブルを大幅に減らせます。
①監護者の指定 ②子どもの進学に関する基本方針 ③意見が対立したときの解決ルール(例:30日以内に調停に付す)
④緊急時の連絡方法と判断権者 ⑤面会交流の具体的なスケジュール
⑤ こんな場合は単独親権を選ぶべき
共同親権は父母が最低限の協力関係を維持できることを前提とした制度です。以下のような状況では、共同親権よりも単独親権を選ぶことが子どもの利益になる可能性が高くなります。
単独親権が適切なケース
- 相手からDV・モラハラ・虐待を受けていた、またはそのおそれがある
- 離婚後も相手と連絡を取り合うことが精神的に大きな負担になる状態である
- 相手が子育てに全く関与しておらず、連絡しても無視することが予想される
- 子ども自身が相手の親と関わることを強く拒否している
- 転居が多い・緊急の判断が頻繁に必要など、迅速な意思決定が欠かせない生活環境である
なお、DVや虐待がある場合には、家庭裁判所は共同親権ではなく単独親権を定めることが法律上義務づけられています(民法819条7項)。「共同親権を強制されるのでは」という不安を持っている方も、こうした保護の仕組みがあることを覚えておいてください。
また、調停・審判で共同親権か単独親権かが争われる場面では、「父母が協力して親権を行使できる関係性があるかどうか」が主要な判断基準のひとつになります。対立が激しい夫婦の場合、裁判所が単独親権を選ぶケースが多くなると予想されています。
⑥ よくある質問
Q. 共同親権になると子どもが両方の家を行き来しなければなりませんか?
A. いいえ、共同親権と子どもの居住場所は別の問題です。「どちらの家で生活するか」は監護者の指定や監護の分掌で決まります。共同親権を選んでも、子どもが主に一方の親の元で生活し、もう一方の親と面会交流するという形にすることが一般的です。毎日両方の家を行き来しなければならないわけではありません。
Q. 共同親権を選んだ後で、単独親権に変更できますか?
A. 変更は可能です。離婚後に「DVが発覚した」「相手が子育てに全く関与しなくなった」「相手が子どもに悪影響を与えている」など、重大な事情の変化がある場合、家庭裁判所に親権者変更の申立てをすることができます。ただし、変更が認められるには相応の事情が必要で、「面倒になったから」という理由では認められません。
Q. 相手が重要な決定事項について連絡に全く応じない場合はどうすればよいですか?
A. 適切な方法で連絡・協議を求めたにもかかわらず相手が応じない場合、一定の状況下では黙示的な同意があったと解釈できるケースもあります。それでも解決しない場合は、家庭裁判所に「特定事項の親権行使者の指定」を申し立てることで、決定権を自分に帰属させることができます。繰り返し無視される状況が続く場合は、弁護士に相談して適切な手続きを検討してください。
Q. 離婚前に別居中ですが、子どもの習い事や進路は今のうちに決めておいた方がよいですか?
A. 共同親権になることが見込まれる場合は、子どもの生活に関する取り決めを離婚前の段階から弁護士と一緒に整理しておくことをお勧めします。特に「監護者を誰にするか」「面会交流の頻度と方法」「重要事項の合意プロセス」は、離婚協議書や公正証書の中で明確にしておくことが、将来のトラブルを防ぐ最善策です。
まとめ
共同親権の下での日常生活は、正しい知識があれば必要以上に恐れることはありません。本記事の要点を振り返ります。
- 共同親権でも「日常の監護教育」は監護者が単独で決められる——すべてに合意が必要なわけではない
- 転居・進学・重大な医療・財産処分は原則として父母双方の合意が必要
- 緊急の場合(急病・DV避難)は単独で行動できる
- 意見が対立したら、監護者指定・特定事項の親権行使者指定など家庭裁判所の手続きを活用できる
- 離婚時に監護者・面会交流・対立時のルールを具体的に決めておくことがトラブル防止の鍵
- DV・虐待がある場合や意思疎通が不可能な状況では、単独親権を選ぶことが子どもの利益になる
「共同親権になったが、相手が何も決めさせてくれない」「共同親権か単独親権かで迷っている」——そうした状況でも、弁護士が具体的な対応策をご提案します。まずはお気軽にご相談ください。

