不倫やDVを理由に慰謝料を請求したところ、相手から「お金がないので払えない」と言われた——こうしたケースは実際に多く起きています。せっかく交渉して合意を取り付けても、相手が「支払えない」と言い張ることで回収が滞り、途方に暮れてしまう方が少なくありません。
しかし、「払えない」という言葉をそのまま受け入れて諦める必要はありません。法律には、支払い能力が乏しい相手から慰謝料を回収するための手段が複数用意されています。また、「払えない」という主張が本当に事実なのかを確かめる手段もあります。
本記事では、相手が「払えない」と言ってきた場合にまずすべきこと・相手の財産を調べる方法・強制的に回収するための手段・分割払いで対応するときの注意点・相手が破産した場合の扱いまで、西宮市・尼崎市を中心に離婚・慰謝料案件を手がけるフェリーチェ法律事務所の弁護士が詳しく解説します。
① まず「本当に払えないのか」を確かめる
相手が「お金がない」「払えない」と言ってきたとき、それが事実であるとは限りません。支払いを逃れるための言い訳として使われることも多く、実際には相応の収入や資産を持っているにもかかわらず「払えない」と言い張るケースもあります。
請求を諦める前に、まず相手の財産状況を把握することが重要です。相手の財産を調べる方法としては、主に以下のものがあります。
財産調査の主な方法
- 弁護士会照会:弁護士が弁護士会を通じて、金融機関・不動産登記・勤務先などの情報を照会できる制度。相手の同意なしに利用できる。
- 財産開示手続き:裁判所の確定判決や執行認諾文言付き公正証書がある場合、裁判所が債務者(相手)を呼び出して財産の内容を開示させる手続き(民事執行法196条〜)。
- 第三者からの情報取得手続き:2020年に新設された制度。裁判所が金融機関・市区町村・勤務先などに直接照会して、相手の財産情報を取得できる。
- 探偵・調査会社の活用:勤務先の特定・不動産の有無の調査などを依頼できる。費用はかかるが有効な場面も多い。
ポイント:財産開示手続きや第三者からの情報取得手続きを利用するには、事前に「債務名義」が必要です。
債務名義とは、確定判決・調停調書・執行認諾文言付き公正証書などのことです。
口頭の合意や普通の示談書では利用できないため、慰謝料の取り決めをする際は必ず書面の形式にこだわってください。
② 相手が払えない場合の対処法①——分割払いへの切り替え
相手に一括で支払う資力がない場合でも、分割払いの合意をすることで現実的な回収の道が開けます。「月々いくら・いつまで払う」という具体的な条件を取り決め、それを書面にまとめます。
分割払いで最も重要なのは、取り決めの書面の形式です。単なる示談書だけでは、途中で支払いが止まった場合に再び訴訟を起こして判決を得る手間が発生します。分割払いの合意は必ず「執行認諾文言付き公正証書」の形式にしておくことをお勧めします。これにより、支払いが滞ったときに改めて訴訟を起こすことなく、直接強制執行(差押え)の手続きに移れます。
分割払いの合意書に盛り込むべき重要条項
- 支払いの開始日・毎月の支払日・各回の支払金額
- 全体の支払い総額と最終支払い期限
- 期限の利益喪失条項:1回でも支払いが滞った場合に残額を一括で支払う義務が生じる旨の定め
- 遅延損害金の定め:滞納した場合の利息相当額の規定
- 住所・連絡先の変更通知義務:転居・転職した場合に通知する義務を定める
注意:「期限の利益喪失条項」を入れておかないと、相手が滞納しても一回分の未払いを請求することしかできず、
実質的な回収が非常に困難になります。
分割払いの合意書を作成する際は、必ず弁護士に内容を確認してもらってください。
③ 相手が払えない場合の対処法②——強制執行(差押え)
確定判決・調停調書・執行認諾文言付き公正証書などの債務名義がある場合、相手が任意に支払わなければ強制執行(差押え)の手続きを取ることができます。強制執行は、裁判所を通じて相手の財産を強制的に差し押さえて回収する方法です。
差押えの対象と特徴
| 差押えの対象 | 内容と特徴 |
|---|---|
| 給与(賃金)の差押え | 勤務先の会社から相手の給与を直接受け取る方法。手取り額の4分の1まで差し押さえできる。相手が退職しない限り継続的に回収できるため、最も実効性が高い方法のひとつ。 |
| 預貯金の差押え | 相手の銀行口座を差し押さえて、残高を回収する方法。口座のある金融機関と支店が判明していないと難しい。残高がなければ回収できない。 |
| 不動産の差押え | 自宅・土地・マンションなどを差し押さえ、競売にかけて換価する方法。手続きに時間がかかるが、高額の不動産があれば確実な回収手段になる。 |
| その他の財産 | 自動車・有価証券・売掛金(相手の事業収入)・貸付金なども差押えの対象になりうる。財産の種類に応じて手続きが異なる。 |
給与の差押えは、継続的に回収できる点で特に有効です。相手が転職しても転職先を特定して再度差し押さえることも可能です。ただし、相手が自営業・フリーランスの場合は給与がないため、売掛金や預貯金への差押えを検討することになります。
④ 相手が破産を申請した場合
慰謝料を請求した後や支払い中に、相手が自己破産を申請するケースがあります。破産は「借金をすべてなくせる」というイメージがありますが、慰謝料については特別なルールが適用されます。
原則:破産免責によって債務は消える
自己破産が認められると、相手の多くの借金は「免責」されます。つまり、法的に支払い義務がなくなります。慰謝料も、原則としては免責の対象になりえます。
例外:悪意による不法行為の慰謝料は免責されない
破産法253条1項2号は、「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償」は免責されないと定めています。不倫やDVによる慰謝料がこの「悪意による不法行為」に該当するかどうかが、免責されるかどうかの分かれ目になります。
不倫の慰謝料については、「相手が既婚者であることを知りながら、または重大な過失によって関係を持った」場合には悪意があると認定され、免責されないと判断されるケースがあります。DVによる慰謝料については、故意による身体への加害行為が含まれるため、免責されないと認定されやすい傾向があります。
ただし、実際に免責されるかどうかは個別の事情によって判断が異なります。相手が破産申請を行ったことを知ったら、早急に弁護士に相談し、破産手続きの中で適切に意見を述べる機会を持つことが重要です。
アドバイス:相手が破産申請をしたことを知ったら、すぐに弁護士に相談してください。
破産手続きの中で「非免責債権(免責されない債権)」として主張するためには、
破産管財人や裁判所に対して適切なタイミングで意見を述べる必要があります。
相手の破産申請に気づかないまま手続きが終了すると、後から争うことが困難になります。
⑤ 不倫相手がいる場合——配偶者が払えなくても不倫相手に請求できる
不倫の慰謝料を請求する場合、配偶者と不倫相手の双方が損害賠償責任を負います(不真正連帯債務)。この連帯関係は、配偶者が「払えない」という状況でも有効です。
つまり、配偶者に支払い能力がない・支払いを拒否している場合でも、不倫相手に対して慰謝料の全額を請求することができます。特に、不倫相手の方が経済力があるケース——会社員・公務員など安定した収入がある——では、不倫相手への請求を優先することが有効な回収戦略になります。
ただし、配偶者と不倫相手の両方から慰謝料を受け取ることができるのは「合計額が認められた慰謝料の範囲内まで」です。どちらか一方が全額を支払った場合、もう一方への請求は消滅します(二重取りにはなりません)。
⑥ 支払いを確実にするための事前対策
慰謝料の回収トラブルを防ぐには、取り決めの段階から正しい書面を作成しておくことが最も重要です。「言った・言わない」の水掛け論を防ぐためにも、また万一の不払いへの備えとしても、以下の対策を取り決め時から意識してください。
- 執行認諾文言付き公正証書を作成する:裁判を経ずに直接強制執行が可能になる。最も重要な事前対策。
- 期限の利益喪失条項を入れる:1回でも滞納が発生したら残額を一括請求できる条項を明記する。
- 不倫相手も含めた連名での合意にする:配偶者が払えない場合でも不倫相手への全額請求が可能になる。
- 連帯保証人をつける:資力のある第三者(不倫相手の親族など)に保証人になってもらう(現実的には難しい場合が多いが検討の余地あり)。
- 住所・勤務先の変更通知義務を定める:転居・転職後も連絡先を把握し続けられるようにする。
⑦ よくある質問
Q. 示談書にサインした後で相手が払わなくなりました。どうすればいいですか?
A. まず示談書の内容を確認してください。示談書が「執行認諾文言付き公正証書」の形式であれば、訴訟なしで直接強制執行(差押え)の手続きに入ることができます。通常の示談書(私文書)の場合は、まず裁判を起こして確定判決を得る必要があります。いずれの場合も、まずは弁護士に相談して今後の手続きを確認することをお勧めします。
Q. 相手の勤務先がわからないのですが、給与の差押えはできますか?
A. 相手の勤務先が判明していなければ給与の差押えはできません。勤務先の特定には、弁護士会照会・第三者からの情報取得手続き(債務名義が必要)・探偵への調査依頼などの方法があります。相手が転職を繰り返して勤務先を隠している場合でも、住民票・健康保険の加入情報などを手がかりに特定できるケースがあります。
Q. 相手が「お金がないから払えない」と言っているのに、SNSで豪遊しています。どうすればいいですか?
A. SNSへの投稿は、相手に支払い能力があることを示す間接的な証拠になりえます。スクリーンショットを保存しておきましょう。また、「払えない」と言いながら財産を隠匿している可能性がある場合は、財産開示手続きや弁護士会照会を活用して実際の資産を調査することが有効です。弁護士に相談することで、相手の実際の財産状況を明らかにする方策を一緒に検討できます。
Q. 相手が「破産すれば慰謝料も消える」と言っています。本当ですか?
A. すべての慰謝料が免責されるわけではありません。不倫・DVなどの悪意による不法行為に基づく慰謝料は、破産法上の「非免責債権」に該当するとして、免責されないと判断されるケースがあります。ただし、実際に免責されるかどうかは個別の事情によります。相手が破産を示唆している段階から弁護士に相談し、事前に対策を立てておくことが重要です。
まとめ
「払えない」と言われても諦める必要はありません。法律には複数の回収手段が用意されています。本記事の要点を振り返ります。
「払えない」はそのまま受け入れない。まず財産調査(弁護士会照会・財産開示手続きなど)で実態を確認する
- 分割払いに応じる場合は執行認諾文言付き公正証書+期限の利益喪失条項が必須
- 債務名義があれば給与・預貯金・不動産への強制執行(差押え)が可能
- 給与の差押えは継続的な回収が見込めるため特に有効
- 不倫の場合は配偶者が払えなくても不倫相手への全額請求が可能
- 相手が破産しても、悪意による不法行為の慰謝料は免責されないケースがある
- 取り決め時に公正証書を作成しておくことが、後の回収トラブルを防ぐ最大の対策
「慰謝料を取り決めたのに払ってもらえない」「相手が払えないと言って逃げようとしている」——そうした状況でも、弁護士が介入することで回収への道が開けることがあります。まずはお気軽にご相談ください。

