離婚調停中は、配偶者との婚姻関係が継続しているので、交際等、異性と関わることは不貞行為に当たり、状況によっては慰謝料の支払いを求められたり有責配偶者になってしまいます。慰謝料が発生するケースや不貞を疑われた時の解決策について解説します。
離婚調停中に異性と会うのは不貞行為になる? 慰謝料が発生したり有責配偶者になるケースを解説
離婚調停中は夫婦の婚姻関係が継続しているため、異性と会うことは、不貞行為を疑われてしまうリスクがあります。不貞行為と認定されると慰謝料の支払い義務が生じたり、有責配偶者になってしまうことがあります。
ただ、夫婦の関係が破綻しているなど一定の場合はそうしたリスクがないこともあります。
離婚調停中に異性と会っていることのリスクやリスクを回避するためのポイントを解説します。
離婚調停中に異性と会うべきではない理由
離婚調停中は、異性と会うべきではないと言われることがあります。
離婚調停が行われている状況では、通常は夫婦の仲は冷え切っており、別居していることも珍しくありません。
それにも関わらず、夫なら女友達、妻なら男友達と会うことは避けなければならないのはなぜなのでしょうか。
その理由は次のリスクがあるからです。
- 不貞行為を疑われるリスクがある
- 夫婦の貞操義務違反で慰謝料の支払い義務が生じるリスクがある
- 有責配偶者になってしまうリスクがある
一つ一つ解説します。
不貞行為を疑われるリスクがある
不貞行為は、民法770条に規定されている法定離婚事由の一つです。
判例によれば、配偶者がいる人が自由な意思に基づいて、配偶者以外の人と性的な関係を結ぶことを意味するとされています(最判昭和48年11月15日 民集 第27巻10号1323頁)。
例えば、夫が他の女性と性的な関係を持った場合は、妻は裁判離婚を提起することができます。もちろん、その逆もあります。
夫婦が離婚調停中でも、夫婦のどちらか一方は、離婚したくないと考えているケースもあるでしょう。
この場合、離婚したくないと考えている側が異性と会って、親密な関係になっていることが発覚すると、不貞行為を疑われてしまい、裁判離婚の口実を与えてしまう可能性があります。
夫婦の貞操義務違反で慰謝料の支払い義務が生じるリスクがある
離婚調停中ということは、夫婦の関係が冷え切っていることも少なくありません。
それでも、婚姻関係が継続している間は、夫婦はお互いに貞操の義務を負っていることになります。
貞操の義務とは、夫婦の婚姻関係が続いている間は、他の人と性的な関係を持ってはいけない、つまり、不貞行為をしてはいけないという義務です。
そして、貞操の義務に反した場合は、民法709条の不法行為に該当するため、配偶者が被った精神的苦痛についての慰謝料を支払うべき義務が生じます。
不倫相手だけでなく不倫した配偶者も連帯して慰謝料の支払い義務を負います。
例えば、夫婦が離婚調停中に、夫が他の女性と不倫していた場合は、夫は妻に対して慰謝料を支払わなければなりません。
離婚調停中に他の異性と会うことは、不倫を疑われてしまい、夫婦の貞操義務違反による慰謝料の支払い義務を負ってしまうリスクがあるということです。
有責配偶者になってしまうリスクがある
離婚調停では、夫婦は対等の立場で話し合いを行います。ただ、有責配偶者となった場合は不利な立場に立たされてしまいます。
有責配偶者とは、民法770条に規定されている法定離婚事由に該当する行為を行うなどしたことにより、婚姻関係を破綻させたことに責任がある配偶者を意味します。
婚姻関係が継続している間に不貞行為を行った場合は、有責配偶者に該当してしまいます。
そして、有責配偶者は、自分から離婚を請求することはできません。つまり、自分は離婚したいと思っていても相手が拒否しているときは、離婚できないということです。
離婚できない場合は、相手に対して婚姻費用を支払い続けなければならなくなります。
例えば、夫が妻と離婚したいと考えて別居し、他の女性と同居して性的な関係を持っていたとします。
この場合、夫は有責配偶者になりますから、夫から離婚を請求することはできません。
妻が離婚を拒んでいる限り、不倫相手と正式な夫婦になることはできませんし、妻に対して、生活費などの婚姻費用を支払い続けなければならないわけです。
離婚調停中に他の異性と会うことは、不倫を疑われてしまい、有責配偶者になってしまうリスクがあるということです。
離婚調停中に異性と会ってもリスクがないケース
夫婦の立場によっては、離婚調停中に異性と会ってもリスクがないケースもあります。次のような場合です。
- 夫婦の双方が離婚したいと思っている場合
- 夫婦の関係が破綻している場合
- 有責配偶者からの離婚が認められる条件を満たしている場合
一つ一つ確認しましょう。
夫婦の双方が離婚したいと思っている場合
夫と妻のどちらも離婚したいと考えているケースなら、離婚調停中に異性と会っていてもリスクは低いです。
不貞行為を疑われると相手に裁判離婚の口実を与えてしまいますが、そのような状況で困るのは離婚したくないと考えている場合だからです。
自分も離婚したいと考えているなら、相手から離婚すると言われても、むしろ望むところだという話になるでしょう。
ただ、慰謝料の支払い義務が生じる可能性があるのでその点に注意が必要です。
夫婦の関係が破綻している場合
離婚調停中に他の異性と会っていると、不倫を疑われてしまい、夫婦の貞操義務違反による慰謝料の支払い義務を負ってしまうリスクがあります。
ただ、この慰謝料の支払い義務は夫婦の関係が破綻している場合は生じません。
この慰謝料は、正常な婚姻関係にある夫婦の「婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為」によって、不倫された配偶者が精神的苦痛を被った場合に、発生するものだからです。
夫婦の関係が既に破綻しているなら、夫または妻が他の異性と会って、性的関係を結んでいたとしても、精神的苦痛を被ることはないので、夫婦の貞操義務違反による慰謝料の支払い義務は生じないと解されています(最判平成8年3月26日 民集 第50巻4号993頁)。
有責配偶者からの離婚が認められる条件を満たしている場合
離婚調停中に他の異性と会っていたために不倫を疑われてしまい、有責配偶者になってしまうと、離婚を請求できなくなるリスクがあります。
ただ、有責配偶者からの離婚請求が全く認められていないわけではありません。
有責配偶者からの離婚請求を認めた裁判例がいくつかあるので紹介しておきます。
未成熟子がいない夫婦の離婚のケース
夫婦の間に未成熟子がおらず、別居期間が長い場合です。
- 夫婦の別居が長いこと。
- 夫婦に未成熟の子がいないこと。
- 離婚により相手方配偶者が困窮状態になるなどの社会正義に反する事情がないこと。
裁判所は、この3つの条件がそろっている場合であれば、有責配偶者からの離婚請求も認められると判断されました(最大判昭和62年9月2日 民集 第41巻6号1423頁)。
夫婦の関係が完全に破綻した後に同棲を始めたケース
例えば、夫婦の関係が完全に破綻した後に、夫が妻以外の女性と同棲して夫婦同然の生活を始めていたというケースです。
形式的には、夫は、有責配偶者ということになりますが、裁判所は、夫からの離婚請求が認められると判断しました(最判昭和46年5月21日 民集 第25巻3号408頁)。
離婚調停中に異性と会うことはどこまでなら許されるのか?
離婚調停中に異性と会ってはいけないというルールはありません。
注意すべきことは、離婚調停中に異性と会っていたことを知られて、不貞行為を疑われてしまい、上記で紹介したようなリスクを背負うことがある点です。
そのため、不貞行為を疑われない程度で異性と交流することは何ら問題はありません。
どの程度なら、許されるのかケース別にみていきましょう。
異性とLINEや連絡を取り合うこと
異性とLINEや連絡を取り合うことは、特に問題ありません。
仕事の用事や元々の友達、知り合いであれば、連絡を取り合わない方が不自然でしょう。
ただ特定の異性と親密にLINEや連絡を取り合っている場合は、そのやり取りから、不貞行為を行っていると疑われてしまうリスクがあります。
異性と食事をすること
異性と食事をした場合は、少なくとも友達や同僚など、二人の間に何らかの関係があるはずです。
しかし、異性との食事が直ちに不貞行為に結び付くわけではありませんので、離婚調停中でも食事程度なら基本的に問題ありません。
ただ、誤解を招くような形での食事は注意しましょう。
例えば、二人で頻繁に食事を繰り返したり、個室や密室空間などで食事することです。
異性とデートすること
異性とデートしている場合は、二人が交際中であることが明白になります。
しかし、デートをしているだけで、それ以上の仲に発展していないのであれば、不貞行為には当たりません。
例えば、手をつないで歩いたり、キスしたり、抱き合っている程度では、不貞行為に発展していることの確定的な証拠にはなりません。
もっとも、こうした間接的な証拠を相手に押さえられてしまうと、不貞行為を行っていると主張されやすくなります。
そのため、デートするにしても、深い関係性を疑わせるような証拠を押さえられないように注意しましょう。
異性と一緒に宿泊すること
異性と一緒に宿泊した場合は、宿泊中に不貞行為を行っていたという疑いを強めてしまいます。
一般的なホテルや旅館でも、部屋が別だったという明確な証拠がない限り、不貞行為を疑われます。
ラブホテルの場合は、性的な目的で入るものとの推定が強く働いてしまいますから、不貞行為を行っていたと認定されやすくなります。
異性と自宅で過ごすこと
異性を自宅に招いたり、異性の自宅に行くことは、不貞行為を疑われやすい状況です。
自宅に行く理由としては、仕事の打ち合わせ、食事会や懇談会などが目的のこともあるので、直ちに不貞行為に結び付くわけではありません。
ただ、次のような状況だと、不貞行為の疑いが強まります。
- 滞在時間が長い
- 夜間も滞在している
- 自宅に頻繁に訪れている
- 常に二人っきり
昼夜問わず滞在時間が長い場合は、不貞行為を行っていたと推認されやすくなります。
夜間も滞在して、泊まっていた場合はなおさらです。
また、自宅を訪れる頻度が多い場合も、それだけ親密な関係にあると判断されやすくなります。
さらに、自宅で会う時に常に二人っきりという状況だと、不貞行為が目的と疑われやすくなります。
積極的にマッチングアプリを使ったり婚活すること
異性と会うために、離婚調停中に積極的にマッチングアプリを使ったり婚活することが認められるのでしょうか?
結論から言うと、離婚調停中の婚活が禁止されているという決まりはありません。
ただ、離婚調停中はまだ婚姻関係が続いているわけですから、既婚者として婚活していることになります。
マッチングアプリなどでは、規約で独身者に限るといったルールを設けていることがあるので、このルールに違反していたことになり、退会処分を受けてしまうといったリスクがあります。
また、出会った異性に独身であると嘘をついてしまった場合、相手に与える印象が悪くなってしまいます。
やはり、離婚調停中はマッチングアプリを使ったり婚活することは控えるのが無難です。
離婚調停中に異性と会い不貞行為を疑われた場合の対処法
離婚調停中に異性と会い、不貞行為を疑われた場合はどう対処すべきか解説します。
異性との関係を丁寧に説明する
離婚調停では、自分の主張を話す相手は、調停委員です。
調停委員は離婚当事者の間に立って、離婚の条件をまとめるなどの調整役を担っています。
離婚調停中に異性と会い不貞行為を疑われた場合でも、そのことを問い詰めるような形で追及してくることは少ないでしょう。
そのため、異性との関係について正直に丁寧に説明することが大切です。
ここで、威圧的な言動をしたり、感情的になってしまうと、調停委員に良くない印象を与えてしまい、離婚の条件などが不利になってしまうこともあります。
弁護士に相談する
離婚調停中なのに不貞行為を行った場合は、冒頭で説明したように様々なリスクがあります。
そのリスクを回避するためには、不貞行為を行っていたことを否定したり、夫婦の関係が完全に破綻していることを主張する等の対応策を考えなければなりません。
そのためには、客観的な証拠に基づいて主張する必要があり、弁護士の手助けが必要になることもあります。
不貞行為を疑われてしまい、対処方法が分からないときは早めに弁護士に相談しましょう。
まとめ
離婚調停中に異性と会うこと自体は禁止されていませんが、異性との親密な関係にあるケースでは、不貞行為を行っていると疑われてしまうことがあります。
この場合、夫婦の貞操義務違反で慰謝料の支払い義務が生じたり、有責配偶者になってしまうリスクがあります。
こうした事態を避けるためには、異性と会う際は、離婚調停中であることを意識し、節度を守ることも必要です。
離婚調停中は異性と会うよりも早期に離婚を成立させることを優先させましょう。
離婚調停でなかなか話し合いがまとまらなかったり、有利な条件を引き出せず悩んでいる方は、早めに弁護士にご相談ください。





