離婚時の年金分割は、老後の生活設計を左右する問題です。この記事では、年金分割しないとどうなるのか、しない方がいいケース、手続きの流れを解説。実は、年金分割には2年の請求期限があります。この記事を読めば、年金分割の基本から注意点まで理解できます。
「離婚後の生活が不安」「年金分割しないとどうなるか知りたい」と心配される方も多いでしょう。実は年金分割をしなければ、婚姻期間中に夫婦が積み立てた年金受給権が公平に分配されず、経済的に厳しくなる可能性があります。なぜなら、特に専業主婦(夫)だった場合は、自分の年金額が少なく老後の生活に支障をきたすからです。
この記事では、離婚時に年金分割しないとどうなるのかについて、年金分割の基本から注意点まで、分かりやすく解説します。この記事を読むと、年金分割の重要性や手続き方法が分かり、適切に判断できるようになるでしょう。年金分割は、離婚後の経済的安定のために不可欠な権利です。
離婚に際して年金分割しないとどうなる?
離婚に際して年金分割しないと、将来の老後生活に大きな経済格差が生じる可能性があります。専業主婦(夫)だった場合、厚生年金の受給権がなく、老後の収入が基礎年金に限られてしまいます。
年金分割とは、婚姻期間中に夫婦が積み立てた厚生年金の受給権を公平に分け合うための制度です。例えば、夫が会社員で妻が専業主婦の家庭で離婚した場合には、年金分割しなければ妻は基礎年金しか受け取れません。
一方、年金分割すると、夫の厚生年金加入期間の保険料納付実績を最大50%まで分けてもらうことが可能になります。
共働き家庭でも収入格差があれば問題は同様です。高収入だった配偶者の方が年金受給額も多くなるため、年金分割しないと将来の年金額に大きな差が出ます。
長い婚姻期間を経た後の離婚では、年金額の格差は大きくなり、生活水準の急激な低下を招く恐れがあります。
離婚後の経済的自立を考える上で、年金分割は重要な権利です。年金分割せずに離婚すると、老後の生活設計に大きな影響を与える可能性があることを十分理解しておきましょう。
年金分割とは
年金分割制度は、離婚時に婚姻期間中の厚生年金保険料納付記録を夫婦間で分割できる仕組みです。この制度では現金や年金額そのものではなく、将来の年金受給権の基礎となる「保険料の納付記録」を分割します。
ポイントは、分割対象が厚生年金や共済年金に利用できますが、国民年金(基礎年金部分)は対象外になる点です。そのため、自営業者など国民年金だけに加入していた方の場合は分割できません。
分割されるのは婚姻期間中の納付記録だけで、婚姻前や離婚後の記録は含まれません。たとえ30年間の勤務歴があっても、結婚期間が15年なら分割対象は15年分にとどまります。
年金分割は離婚後の経済的自立を支えるための権利であり、専業主婦(夫)や収入格差が大きい夫婦にとって、将来の生活保障に影響する制度といえるでしょう。
年金分割の種類は合意分割と3号分割
年金分割には、「合意分割」と「3号分割」の2種類が存在します。それぞれの概要や違い、請求期限について詳しく見ていきましょう。
合意分割
合意分割とは、夫婦間の合意に基づいて、「婚姻期間中の厚生年金記録」を分割する方法です。分割割合は、原則として2分の1ですが、夫婦間の合意により2分の1を上限として異なる割合を定めることも可能です。
合意分割するためには、年金分割の合意書を作成して、年金事務所に提出する必要があります。合意書には、分割割合や按分割合の基準となる期間などの記載が必要です。
夫婦間での合意が難しい場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てることもできます。合意分割は、夫婦間の話し合いが物別れになることも多いため、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
3号分割
3号分割とは、2008年4月1日以降の婚姻期間中に「専業主婦(夫)であった期間の厚生年金保険料」を自動的に2分の1に分割する方法です。3号分割は、夫婦間の合意がなくても請求できます。
3号分割の対象となるのは、第3号被保険者であった期間だけです。第3号被保険者とは、厚生年金保険に加入中の配偶者に扶養されている「20歳以上60歳未満の方」を指します。
3号分割は、合意形成が不要で、手続きが比較的簡単な点がメリットです。一方で、対象期間が限定されているため、合意分割と比べて分割できる年金額が少なくなる場合があります。
合意分割と3号分割との違い
合意分割と3号分割との違いを一覧表にしました。
年金分割の種類 | 合意分割 | 3号分割 |
制度開始日 | 2007年4月1日 | 2008年4月1日 |
対象期間 | 婚姻期間中の厚生年金加入期間全体 | 2008年4月1日以降の第3号被保険者期間のみ |
分割対象 | 婚姻期間中の当事者双方の厚生年金標準報酬 | 第3号被保険者期間における配偶者の標準報酬 |
分割方法 | 標準報酬が多い側から少ない側へ | 厚生年金被保険者から第3号被保険者へ |
分割割合 | 上限1/2まで自由に設定可能 | 法定で1/2(固定) |
合意の必要性 | 必要 | 不要 |
手続き方法 | 原則として夫婦2人で年金事務所にて手続き | 第3号被保険者だった方が単独で手続き可能 |
請求期限 | 離婚日翌日から2年以内 | 離婚日翌日から2年以内 |
合意分割は、夫婦間の話し合いで柔軟に分割割合を決められるものの、合意形成が難しい場合には、家庭裁判所に調停や審判を申し立てる必要があります。
一方、3号分割は自動的に2分の1に分割されるため手続きが比較的簡単なものの、対象期間が限定されるのはデメリットです。
どちらの分割方法を選択するかは、婚姻期間や夫婦間の状況によって異なります。
年金分割の請求期限は2年間
年金分割の請求期限は、原則として離婚成立日の翌日から2年間です。請求期限を過ぎると、年金分割を請求できなくなるため注意が必要です。ただし、特別な事情がある場合は、期限後でも請求が認められることがあります。
例えば、離婚後に相手が行方不明になった場合や、病気などで請求手続きができなかった場合などが挙げられます。請求期限を過ぎてしまった場合でも、自分の判断で諦めず離婚問題の経験が豊富な、弁護士などの専門家に相談しましょう。年金分割は、離婚後の生活設計において主要な収入源となるため、2年間の期限内に確実に手続きすることが大切です。
離婚に際し年金分割しなくてもよいケース
次のようなケースでは、年金分割しなくてもよい場合があります。以下で詳しく紹介します。
配偶者が厚生年金に加入したことがない
配偶者が厚生年金に加入したことがない場合には、年金分割の対象となる年金記録が存在しないため、年金分割の必要はありません。配偶者が自営業者やフリーランスの場合には、国民年金にしか加入していないため、厚生年金記録は存在しません。配偶者が専業主婦(夫)で、第3号被保険者期間がない場合も同様です。
ただし、配偶者が過去に厚生年金に加入していた期間がある場合は、その期間について年金分割の対象となる可能性があります。配偶者の年金加入状況を確認した上で、年金分割の必要性を判断しましょう。
自分の年金加入期間が10年に満たない
公的年金を受給するには「加入期間が10年以上必要」という条件があります。条件を満たさない場合には、年金分割しても受給する資格がありません。
65歳の受給開始年齢時点で加入期間が10年未満だと、年金分割の手続きをしても分割による恩恵を受けられません。
しかし、将来的に10年の資格期間を満たす見込みがあれば話は変わります。65歳以降も保険料の納付を継続することで、「加入期間が10年以上必要」という条件を満たして年金受給が可能になるためです。
現時点で加入期間が短くても、将来的に受給資格を得られる見通しがあれば、離婚時に年金分割の手続きをしておくことが将来の経済的保障につながる可能性があります。長期的な視野に立った判断が必要といえるでしょう。
夫婦間で年金分割しないことに合意済み
夫婦間で年金分割しないことに合意している場合、年金分割の必要はありません。ただし、合意は書面で行うことが望ましいでしょう。口約束だけでは、後々トラブルになる可能性があるからです。
合意書の記載事項は、年金分割しないこと、合意に至った経緯、合意日などです。合意書は公正証書にした方が、証拠能力が強くなります。
年金分割は、夫婦間の話し合いが重要となるため、弁護士などの専門家に相談するようにしましょう。
年金分割せず離婚した場合の手続きの流れ
離婚後に年金分割を検討する場合、基本的な手続きの流れは次の3つです。
まず年金事務所で年金分割のための「情報通知書」を取得します。次に、この情報を基に夫婦間で分割割合について協議して、合意できない場合は家庭裁判所での調停・審判へと進みます。
最終的に按分割合が決まったら、年金事務所で実際の分割手続きが必要です。これらの手続きは離婚成立後2年以内に完了させる必要があります。
年金分割のための情報通知書を取得
年金分割手続きの第一歩として、年金事務所で年金分割のための「情報通知書」の取得が必要です。婚姻期間中における厚生年金の加入記録が記載されている情報通知書は、分割すべきかどうかの判断材料です。
情報通知書を基に、年金分割が自分にとって有利かどうかを見極められます。以下の3つを全て満たすことが条件です。
- ①元配偶者が婚姻期間中に厚生年金に加入していたか
- ②自分よりも元配偶者の標準報酬月額や標準賞与額が高いか
- ③離婚日翌日から2年以内の請求期限内であるか
3つの条件を全て満たす場合には、年金分割請求の手続きを進めることが経済的に有利となる可能性が高いでしょう。情報通知書の記載内容を見れば、将来受け取れる年金額の概要が分かり、年金分割を決める際の判断材料です。
夫婦間で合意できないと調停・審判を行う
夫婦間の合意には話し合いが必要ですが、お金がからむため問題が複雑化することも多いでしょう。ケースによっては、慰謝料や養育費よりも年金分割で得られる額の方が高額になることも考えられます。
そのため、夫婦間で年金分割の合意ができない場合には、家庭裁判所に調停や審判の申し立てが必要です。調停では、裁判官や調停委員が間に入り、話し合いによる解決を目指します。調停で合意に至らない場合には、審判に移行し、裁判官が分割割合などを決定します。
調停や審判は、専門的な知識が必要となるため、弁護士に依頼する方がいいでしょう。弁護士は契約内容により、手続きのサポートだけでなく、適切な分割割合の主張や証拠収集なども行ってくれます。
按分割合決定後に年金事務所で分割手続き
夫婦間で按分割合が決定したら、年金事務所で分割手続きをします。手続きには、年金分割の合意書や調停調書、審判書などの書類の提出が必要です。
分割手続きが完了すると、年金分割後の年金額が通知されます。年金分割の手続きは、複雑な場合が多いので、弁護士などの専門家に依頼するか年金事務所に相談しましょう。
離婚と年金分割に関するよくある質問
離婚と年金分割に関するよくある3つの質問に回答します。
- 離婚する際に年金分割しないとどうなる?
- 年金分割制度を知らなかった場合はどうなる?
- 離婚後に年金分割したくない場合は拒否できますか?
以下で順番に見ていきます。
離婚する際に年金分割しないとどうなる?
離婚時に年金分割しないと、将来受け取れる年金額に差が生じます。専業主婦(夫)やパート勤務などで、自身で厚生年金に加入していなかった場合、老後の生活設計に大きな影響を与える可能性があります。
年金分割は、婚姻期間中の厚生年金記録を分割する制度であり、夫婦の協力に対する貢献を反映させるものです。分割しない場合、年金の少ない側は、老後の生活資金が不足するリスクがあります。一度離婚が成立すると、年金分割の請求には原則2年の期限があるため、後から分割を求めることが難しくなる点に注意しましょう。
年金分割制度を知らなかった場合はどうなる?
年金分割制度を知らなかった場合でも、原則として離婚成立日の翌日から2年以内であれば、年金分割を請求できます。
ただし、請求期限を過ぎてしまうと、分割請求が認められない可能性が高くなります。年金分割は、老後の生活設計において重要な要素となるため、離婚前に制度について理解しておくことが大切です。年金分割について不明な点がある場合は、年金事務所に問い合わせるか、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
離婚後に年金分割したくない場合は拒否できますか?
離婚後に年金分割をしたくない場合でも、相手から請求された場合は、原則として拒否できません。年金分割は法律で認められた権利です。
ただし、夫婦間で年金分割しないことに合意している場合は、この限りではありません。合意は書面で行うことが望ましいといえます。口約束だけでは、後々トラブルになる可能性があるからです。
まとめ|離婚で年金分割しないとどうなるか迷ったら弁護士に相談を
離婚時の年金分割は、将来の生活設計を左右する重要な問題です。年金分割しないと、老後の生活に要する費用が不足するリスクが生じます。年金分割には、合意分割と3号分割の2種類があり、それぞれの特徴を理解し、適切な方法を選択しましょう。
年金分割の手続きは、問題が複雑化する場合が多くなりがちです。離婚で年金分割しないとどうなるかと迷ったら、離婚問題を得意とする当法律事務所へ相談してください。