結婚生活において配偶者との信頼関係は幸せな結婚生活を築く上で重要な要です。
ところが長い結婚生活の間には配偶者による「不貞行為」が疑われる場面があるかもしれません。
ただし単なる疑惑では法的に不貞行為を主張することは難しく、何も解決できないことでしょう。
そんな中、配偶者による不貞行為を法的に認めさせ、精神的な被害に対する賠償を償わせることができるかもしれないのが「不貞行為の証拠」です。
では、不貞行為の証拠とは一体どんなものでしょうか。
今回は、不貞行為の証拠とは何か・不貞行為が立証されると何ができるのかについて、どこよりもわかりやすく解説します。
不貞行為とは何か?
不貞行為とは、結婚している人が自分の意志で配偶者以外の人と肉体的な関係を持つことです。
不貞行為を行うことは、民法上の不法行為に該当します。
その理由は日本の婚姻制度が一夫一妻制であること、重婚が禁止されていること、不貞行為が離婚原因となることなどが根拠になっています。
ちなみに不貞行為に似た言葉に不倫や浮気がありますが、違いは不貞行為は法律用語で、不倫や浮気は概念です。
不貞行為とは「貞操義務違反」があった状態のこと
日本では婚姻関係にある夫婦は、互いに「貞操を守る」という義務を負っています。
これを「貞操義務」といいます。
「貞操を守る」とは夫婦が互いに性的な純潔を守り、夫婦以外の相手と肉体関係を持たないということです。
簡単にいうと不貞行為とは、夫婦のどちらか、または両方が「貞操義務違反」があった状態のことをいいます。
結論、不貞行為をするとは民法上の「不法行為」をしているということです。
そのため不貞行為をした側は、慰謝料などの損害賠償請求の対象になる可能性があります。
ちなみに不貞行為自体は原則として犯罪ではありません。
不貞行為が成立するための3つの定義
こちらでは不貞行為が成立するための3つの定義についてご紹介します。
①現在婚姻関係にある夫婦であること
現在婚姻関係にある夫婦とは、法律上の夫婦(法律婚をしている)として認められている関係であることです。
ただし最近は内縁の夫婦、婚約をしている男女も法律上の夫婦と同じように不貞行為があった場合には保護の対象になる可能性があります。
②配偶者以外の相手と性的な関係を持つ
配偶者以外の相手と性的な関係を持つとは、配偶者以外の相手といわゆる「挿入を伴う性行為があった」関係ということです。
必ず「肉体的な結びつきがあった」ことが根拠になります。
逆にいうと、どれだけ感情的に好意があっても問題はありません。
③本人の自由な意思で性的な関係を持つ
本人の自由な意思で性的な関係を持つとは、肉体関係を持った時に強制や脅迫がなかったことです。
誰かに操られることなく、自分の意志で判断して肉体関係を持ったということです。
不貞行為が成立するケースとは?
こちらでは不貞行為が成立するケースについてご紹介します。
①肉体関係を持った場合
既婚者が配偶者以外と肉体関係を持った場合に不貞行為が成立する可能性があります。
具体的には「挿入を伴う性行為があった時」です。
既婚者が配偶者以外と、互いに体を重ね合わせる関係を持つと不貞行為とみなされます。
②性交類似行為があった場合
既婚者が配偶者以外と性交類似行為があった場合に不貞行為が成立する可能性があります。
性交類似行為とは、口淫(オーラルセックス)、手淫、肛門性交、裸で抱き合うことなどです。
性交類似行為は挿入を伴わないものの、性的な満足を満たす行為であり、不貞行為に該当する可能性が高い行為です。
③風俗での性的なサービス
既婚者が配偶者以外と風俗で性的なサービスがあった場合に不貞行為が成立する可能性があります。
風俗での性的なサービスとは、お互いが裸になって、性的な満足を満たすことです。
風俗での性的なサービスの場合、自身が風俗で性的なサービスを受けること、逆に自身が風俗で働き性的なサービスを提供することも不貞行為に該当する可能性が高い行為です。
④2人でラブホテルに入ったまま相当時間退室しない
既婚者が配偶者以外と2人でラブホテルに入ったまま相当時間退室しない場合に不貞行為が成立する可能性があります。
この場合、一般的には性的な関係があったことが推測されます。
理由は性的な行為を目的とした滞在であったことが想像されやすく、特に配偶者以外の人とであれば、周囲に性的な関係があった疑念を抱かれやすい状況といえます。
ラブホテル特有の設備や雰囲気から「特別な関係」に発展していることが連想されるので不貞行為に該当する可能性が高い行為です。
⑤2人で宿泊を伴う旅行をしていた
既婚者が配偶者以外と2人で宿泊を伴う旅行をしていた場合不貞行為が成立する可能性があります。
このケースも一般的には性的な関係があったことが推測されます。
2人で夜を共に過ごすことで、親密さが増し、一気に心と体の距離が縮まることが予想されます。
宿泊を伴う状況は「特別な関係」を連想させ、不貞行為に該当する可能性が高い行為です。
不貞行為が成立しないケースとは?
こちらでは不貞行為が成立しないケースについてご紹介します。
①2人きりでのデート
2人きりでのデートは、デートをしただけであり肉体関係がないので不貞行為は成立しません。
単に一緒に食事をしたり、2人で映画を見たり、カフェで話したりしても、法的に問題はありません。
②キス・手つなぎ・ハグなどの行為
キス・手つなぎ・ハグなどの行為は、親密度が高い関係ではありますが不貞行為は成立しません。
キス・手つなぎ・ハグなどは、外国では愛情表現や挨拶として認識され、男女間でも気軽におこなわれています。
ただし日本でやりすぎると、不貞行為を疑われる可能性があります。
③2人きりでチャット・メール・line・電話でのやりとり
2人きりでチャット・メール・line・電話でのやりとり自体は、親密ではありますが不貞行為は成立しません。
ただし文面に「またエッチしようね」など、肉体関係があったような文章があると、性的関係があると推測され、不貞行為があったとみなされる可能性があります。
不貞行為を認めさせるには「証拠」が必要
仮に配偶者に不貞行為があったとしても、ただ主張するだけでは不貞行為があったことを配偶者とその相手に法的に認めさせることはできません。
その理由は不貞行為があったことを示す「証拠」が出されていないからです。
証拠とは、裁判官が採用してくれる「事実を証明する資料」のことです。
不貞行為を認めさせるにはこの「事実を証明する資料」が必要になります。
不貞行為の立証
裁判で「配偶者が不貞行為をした」と主張する場合、その事実を裏付ける具体的な証拠を提示して、裁判官や相手側に認めさせる必要があります。
これを「立証」といいます。
立証は、ある事実や主張が真実であることを証拠によって明らかにし、証明することです。
立証は推測や感情ではなく、客観的で明確な根拠に基づいておこなわれる必要があります。
配偶者に不貞行為があったことを主張する場合、主張する側に「立証責任」があり、主張する側が不貞行為の証拠を集めなければなりません。
もし証拠が不十分だと、不貞行為があったという主張は認められません。
そうなると仮に肉体関係があっても、不貞行為はなかったことになります。
立証はもっとも重要な行動であり、立証が裁判官に認められるには客観的な証拠があることが不可欠です。
不貞行為が立証されるとできること
裁判で、不貞行為が立証されると次のことができます。
①不貞行為をした相手(愛人)に対して慰謝料請求ができる
不貞行為は、配偶者と相手(愛人)による、不貞行為をされた側の被害者に対する「共同不法行為」です。
そのため被害者は、加害者の1人である相手(愛人)に対して慰謝料請求をすることができます。
相手(愛人)は、不貞行為という不法行為をおこなったことで、加害者に慰謝料を支払う義務を負わなければなりません。
②不貞行為をした配偶者に対して慰謝料請求ができる
不貞行為をした配偶者は、不貞行為をされた側の被害者の権利や法的な利益を侵害したことになり、損害賠償をする義務が発生します。
そのため不貞行為をされた被害者は、不貞行為をした配偶者に対して慰謝料を請求することができます。
③不貞行為をした配偶者に対して離婚の請求ができる
配偶者の一方が不貞行為をしたことが裁判所で認められた場合、もう一方の配偶者はそれを理由に「裁判離婚」をすることができます。
(※ただし、日本は調停前置主義を取っているため、裁判の前には調停を申し立てる必要があり、すぐに離婚ができるわけではありません。)
不貞行為は、離婚事由にあたり、裁判で認められれば離婚することができる不法行為です。
そのため不貞行為をされた配偶者は、不貞行為をした配偶者に対して離婚の請求をすることが可能です。
根拠は民法第770条と1項による「配偶者に不貞な行為があったとき。」「離婚の訴えを提起することができる。」によります。
ただし不貞行為があったとしても、これまでの経緯や子どもの状況などから、場合によっては離婚請求が棄却される可能性もあります。
不貞行為をされた側がやってはいけないこと
配偶者に不貞行為をされると、愛している夫婦であれば当然相手を許せないことでしょう。
ただし、だからといって感情的になり、相手に対して報復をしてはいけません。
こちらでは不貞行為をされた側がやってはいけないことについてご紹介します。
①相手に土下座などの謝罪をさせること
不貞行為をされると、当然腹が立ちます。
そうなると相手に土下座をさせて腹の虫をおさめたくなるかもしれません。
ただし相手に土下座などの謝罪をさせると、強要罪(刑法第223条)に該当する可能性があるので絶対にやめましょう。
②相手を殴る
配偶者の不貞行為が発覚すれば、裏切られたと感じ怒りを覚えることでしょう。
そうなると頭にカーッと血が昇り、つい相手に手が出てしまうかもしれません。
ただし相手を殴ってしまうと、暴行罪(刑法第208条)、またケガがあれば傷害罪(刑法第204条)に該当する可能性があるので絶対にやめましょう。
③不貞行為をした相手(愛人)の住居に侵入すること
もし自分が親しくしている知人が配偶者の不貞行為の相手だった時、なぜ不貞行為をしたのかを直に確かめたくなるかもしれません。
そうなると居ても立っても居られなくなり、つい相手が住む家に押し入ってしまうかもしれません。
ただし相手の許可なく勝手に家に押し入ってしまうと住居侵入罪(刑法第130条)に該当する可能性があるので絶対にやめましょう。
不貞行為の証拠になるものとは?
不貞行為を立証するには証拠が必要です。
では、どんなものが不貞行為の証拠として有効なのでしょうか。
こちらでは不貞行為の証拠になるものについてご紹介します。
①肉体関係そのものを撮影した写真や動画
1つ目は肉体関係そのものを撮影した写真や動画です。
最近はスマホで、お互いの性行為を撮影するカップルがいるといわれています。
場合によっては、軽い気持ちでサイトに写真や動画をアップしているかもしれません。
また後で楽しむために、不貞行為をした当事者のスマホに保存されている可能性も十分あります。
もし写真や動画に、性交や親密な行為の場面が明確に映っていれば、裁判を有利にできる証拠となる可能性が高くなります。
②不貞行為を認めた発言がされた録音データ
2つ目は不貞行為を認めた発言がされた録音データです。
スマホで電話する時に、相手との会話を録音しているカップルがいるといわれています。
場合によってはいくつもスマホに保存されているかもしれません。
この時の会話に、肉体関係があったことを認める会話があれば有力な証拠となる可能性があります。
③不貞行為を認めた文章
3つ目は不貞行為を認めた文章です。
スマホで、チャットやメールを使ったやりとりをしているカップルは多いです。
この時チャットやメールの中に、不貞行為を認めた文章が保存されているかもしれません。
もし「この前のエッチ良かった」「またエッチしたいね」などの文章があれば有力な証拠となる可能性があります。
④探偵社が作成する調査報告書
5つ目は探偵社が作成する調査報告書です。
探偵社が作成する調査報告書とは、不貞行為を立証するための裁判の証拠として利用されることが前提で作成されている文書のことです。
そのため裁判所が求める不貞行為を立証するための判断材料とフォーマットが整っています。
時系列に不貞行為をした当事者カップルの行動履歴と撮影した写真がプリントされています。
「いつ」「どこで」「だれと」「何をしていたのか」が事細かに記載されているので不貞行為をした相手は言い逃れができません。
不貞行為を立証するためには探偵社に調査報告書を依頼することがおすすめです。
⑤ラブホテルを利用した時のクレジットカードの利用明細
5つ目はラブホテルを利用した時のクレジットカードの利用明細です。
クレジットカードの利用明細のように、第3者的な立場にいる金融機関の利用明細は補強証拠となります。
他の証拠と組み合わせることで、合わせ技で不貞行為を認めざるを得ない状況にできる可能性があります。
またクレジットカード以外にも不貞行為が推測できる利用明細はかなり使えます。
不貞行為の証拠を集める上でやってはいけないこと
不貞行為を裁判所で立証するために必要不可欠なものといえば証拠です。
ただし、どんな手を使っても集めればよいというわけではありません。
こちらでは不貞行為の証拠を集める上でやってはいけないことについてご紹介します。
①盗撮や盗聴
盗撮や盗聴は犯罪行為です。
絶対にやってはいけません。
この場合の盗撮や盗聴とは、不貞行為をしている相手の住宅に忍び込んでカメラや盗聴器を仕込んで盗撮や盗聴をすることです。
②データの捏造や加工はしない
データの捏造や加工をすると証拠としての価値がなくなります。
どんなに元データが事実でも、捏造や加工がバレると裁判所では採用してくれません。
特にテキストデータを改ざんして、あたかも性行為があったような文章をつくりあげると
犯罪になります。
③無断でGPSを設置する
不貞行為をしている相手(愛人)の居場所が知りたいからと、無断で自宅に忍び込み、車にGPSを設置してしまうと、住居侵入罪や器物損壊罪になる可能性があるので絶対にやめましょう。
④他人のID.パスワードを勝手に使用する
他人のID・パスワードを使って、自分の物ではない人物のSNS等に勝手にログインするなどといった行為は、「不正アクセス禁止法」で禁じられています。
不貞行為に関する最新の法改正
不貞行為に関する最新の法改正は2020年4月1日の民法改正により、不貞行為の慰謝料請求の時効が変更されたことです。
①変更前
不貞行為が発生してから20年が過ぎると、不貞行為による慰謝料を求める権利が失われる(除斥期間による制限)。
改正前は時効ではなく、除斥期間と解釈されていたということ。
②変更後
改正後は20年以内であれば「慰謝料請求訴訟等」を提起することで時効を止めることが可能になった。
改正後は除斥期間でなくなり、時効に変更された。
不貞行為をした配偶者との財産分与について(トピックス)
不貞行為をした配偶者に、これまで夫婦で築いた財産を「財産分与」によって半分を渡さなくてはいけないのでしょうか?
結論、不貞行為をした配偶者であっても「財産分与」に関する権利は消滅しません。
感情的には不貞行為をされた側の配偶者はできるだけ財産を渡したくないことでしょう。
ただし不貞行為をした側の配偶者にも財産分与の権利は認められています。
したがって、通常通り財産分与を行う必要があります。
つまり、不貞行為による慰謝料と財産分与は、法的には別の制度であり、一方に影響を与えることはないということです。
まとめ
今回は、不貞行為の証拠とは何か・不貞行為が立証されると何ができるのかについて解説しました。
穏やかで、安らぎに満ちた結婚生活こそ、多くの夫婦が求める理想の形です。
しかしながら、長い結婚生活を送る中で、配偶者の「不貞行為」を疑わざるをえないできごとが起こることもあります。
もしそうなってしまうと、これまで築きあげてきた大事なものまで失ってしまうかもしれません。
弁護士に相談することで次の3つのメリットを得ることができます。
・不貞行為をされた側の今後の対応方法がわかる
・不貞行為を立証する方法が確認でき、証拠収集のアドバイスを受けられる
・不貞行為をした配偶者や相手と会わずに慰謝料や離婚請求などの交渉をしてくれる
もし配偶者の不貞行為でお悩みであれば、ぜひフェリーチェ法律事務所に相談してみてはいかがでしょうか。