離婚で強制執行
離婚に際して、諸問題について十分に話し合い取り決めをしたとしても、その内容が必ずしも遂行されるとは限りません。再度話し合い、実現を促しても埒が明かないこともあります。このような場合、最終手段として強制執行することが考えられます。
強制執行が想定される2つの場面
離婚問題において、強制執行が行われる状況としては、主に以下の3つです。
- ①離婚の際に決められた慰謝料や財産分与、養育費としての金銭支払いや財産分与の対象となる不動産の引渡しが滞った場合など、財貨が対象となる場合
- ②監護権者が非監護権者に対して子の引渡しを求める場合
- ③決められた面会交流が実現されないため、これを求める場合
では、これらについて、以下、解説していきます。
①財貨を対象とする強制執行
債務名義
離婚に際しては、慰謝料、養育費の支払い、財産分与の目的物の引渡し等、財貨をめぐって様々な問題があります。これらについて、単に夫婦間で口約束や単なる離婚協議書で取り決めをしたとしても、それだけでは強制執行できません。強制執行は相手の有無を言わさずに債務を強制的に履行させるため、その前提として公的機関が作成した公的文書が必要になるのです。この強制執行の根拠となる公的文書を債務名義といいます。
- 強制執行認諾文言付の離婚協議公正証書
- 離婚調停における調停調書
- 離婚判決における判決書
これらの正本が債務名義になります。
相手の情報を把握
強制執行するにはまず、相手に上記の債務名義を送達しなければなりません。そのためにも相手の住所を把握することが必要です。さらに、差押えの対象となる相手方の預貯金の開設口座先、不動産、給与を得ている勤務先の確認も必要です。
これらについて、相手が任意に教えてくれる場合は問題ありませんが、これに応じない、あるいは、そもそも所在不明の場合には自ら調査する必要があります。
弁護士会照会制度
弁護士が円滑に職務を行うため、その担当する事件に関して必要な証拠や資料を開示・取り寄せを求めることができます。
照会を求められた側は信義則上回答する義務が生じるだけですが、通常、債務名義に基づく弁護士照会に対してはほとんどの機関・会社はこれに応じます。
問題は、離婚後勤務先が変わった、あるいは所在不明というように、そもそもどこに照会をかければよいのかわからない場合です。
第三者からの情報取得手続き
従来から、離婚後に勤務先を変えさらに引越しするなどして行方を眩ませて、養育費の支払いから逃れる「養育費未払い親」が社会問題となっていました。
そこでこのような状況でも養育費の支払いを確実にさせるため、2020年4月から「第三者からの情報取得手続き」が施行されました。この制度は裁判所を通じて、養育費支払い義務のある者の銀行口座や勤務先について照会できるというものです。照会に際しては住民税や厚生年金情報を基にするので、確実に対象者の現在の勤務先を知ることができます。
さらに、以前は預貯金の差押えには銀行の支店名まで必要でした。このため、別の支店へ口座を作り変えることで差押えから逃れることができました。
これに対しても、銀行の本店に対して「第三者からの情報取得手続き」を利用することで新しい支店を探し出すことができるようになりました。
強制執行手続き
預貯金
債務名義や集めた資料をもとに差押命令申立書を準備し、地方裁判所に差押命令を申立てます。裁判所から預貯金がある金融機関および相手方に差押命令が送達されます。この時点で口座にある預貯金について差押えの効力が生じ、預金者への支払いが禁じられ、その後、実際に預貯金を取り立てることができるようになります。
給与
差押命令申立て後、裁判所より勤務先および相手方に差押命令が送達されます。
差押の効力が生じる範囲が養育費とそれ以外の債権(慰謝料や財産分与請求権等)では異なります。
差押えの範囲
- 養育費以外の債権
支払い滞納分の範囲内で、給与手取が33万円以下の場合、給与債権の4分の1しか差し押さえることができません。33万円を超える部分については全額差し押さえることができます。
- 養育費
給与手取額が33万円以下の場合、2分の1まで差し押さえることができます。
このような違いがあるのは、養育費は子どもが生活していくための費用であり、他の金銭債権と比べてより重要であることを理由にします。
将来の養育費についても強制執行できる
既に養育費の未払が生じている場合、この未払部分と併せて、支払い期限の到来していない将来分の養育費についても一括して執行の申立をすることができます。これにより、毎月の支払い期限が到来する度に差押の申立をする必要がなくなります。
ただし、将来分の養育費については、その養育費の支払い期限後に支払われる給与からしか取り立てることはできません
不動産
裁判所への不動産差押命令申立後、裁判所が適当と認めるときは、その不動産について競売手続きがなされ、この競売代金から取り立てることになります。
競売という手続きを経るため、少なくない時間と費用がかかります。このため財産分与や慰謝料、滞納した養育費等、まとまったお金の支払いを求める場合に向いています。
なお、当該不動産にその価格以上の抵当権の被担保債権が残っている、いわゆるオーバーローン状態の場合には、差押債権者に配当は見込めません。事前の調査が重要になります。
②子の引渡しを求める場合
子の引渡命令がなされたにもかかわらず、非監護親がこれを行わない場合に引渡しを実現する方法については、これまで明文規定がなく、動産執行に準じて行われていました。
しかし、2020年の法改正において、子の心身の負担への配慮しつつ子の身柄の移動を適切に実現するための手続きとして、執行官が、裁判所の命令によって実施できることが明文化されました(子ども引渡しの強制執行)。
具体的には、執行官は引渡し義務を負う親の同意なくその住居等に立ち入って子を捜索し、連れてくることができます。さらに引渡しに際しては引き取る側の監護親が立ち会っておればよく、引渡し義務者の立会が不要となりました。これにより、幼稚園・学校等においても執行を行うことができます。
③子との面会交流を求める場合
この場合には、執行官がむりやり子どもを連れてきて面会交流を実現させるという直接的な手段はとりません。子の福祉に反するからです。
ここでは義務者に対し、一定の期間内に面会交流させなければその義務とは別に間接強制金(罰金のようなもの)を非監護親に支払うべきことを警告することで、義務者に心理的圧迫を加え、自発的な義務の履行を促します。
最後に
いずれの手続きも相手が次の一手を取る前に行うのが肝要です。このため、情報収集も含めてできるだけ迅速に行う必要があります。離婚問題で強制執行をお考えの方は専門家である弁護士へ依頼することをお勧めします。