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熟年離婚に問題となりがちな年金分割とは

2020-07-22
離婚

増える熟年離婚

厚生労働省の調べによると、離婚するカップルは年間約21万組。そのうち同居期間が20年以上の、いわゆる熟年離婚が4万組。とくに35年以上の離婚は近年激増しています。

離婚に際して、養育費や慰謝料等金銭にまつわる争いが多く見られますが、子育てを終えて人生終盤に入ってから離婚を選ぶカップルにおいては、自身の老後を見据えた「銭闘」がしばしば繰り広げられます。ここでは熟年離婚で問題となりがちな財産分与の1つである年金分割について解説します。
 

年金分割制度

年金分割制度とは、夫婦が婚姻期間中に積み立てた厚生年金や共済年金の記録(支払い実績)を離婚に際して分割するものです。2007年4月から導入されました。

この制度が導入される前は、たとえば離婚した妻が夫に対して厚生年金を考慮した請求をすることはできても、あくまでも夫が受け取る年金から妻に支払うという形に過ぎず、夫が応じなければそれまで、というものでした。しかし、たとえ専業主婦(主夫)であっても婚姻期間中保険料の支払いについては夫婦が協力し合い貢献したはずです。それなのに離婚後片方だけが全額受給できるのは不公平という解釈のもと、この制度が導入されました。

専業主婦(主夫)ではなくパートタイマー等で配偶者よりも厚生年金保険料が少ない場合でも、この制度を利用できます。
 

年金制度の仕組みとその分割

 

2種類の年金

年金分割といっても、すべての夫婦が離婚の際に利用できるわけではありません。

これについては前提として、年金制度の理解が必要ですので、以下説明します。

年金には、以下の種類があります。

加入対象者 内容
国民年金 ・20歳以上の自営業者

・学生等の第1号被保険者

・サラリーマン等の第2号被保険者

・第2号被保険者によって扶養されている第3号被保険者

すべての国民が加入しており、10年間の納付していることが受給の要件。

加入期間に応じて受給額が決定し、40年間納付した場合は、年額780,900円受給できる。

厚生年金 サラリーマンや公務員 国民年金部分をベースとして、給料額(報酬額)や加入期間に応じて、受給額が決定し、高収入であればあるほど、高額になる。

 

年金分割の対象

 

厚生年金部分だけ

年金分割の対象となるのは、厚生年金部分のみです。

熟年離婚の際に専業主婦の方がよく誤解されるのは、夫が自営業者であっても請求できるのでは?という点です。自営業者等で国民年金のみに加入している場合、この国民年金は分割の対象となりません。
 

厚生年金のうち婚姻期間中の部分だけ

また、会社員である配偶者の婚姻前からの厚生年金部分も含めて金額を請求できると誤解される方もいます。分割制度が、婚姻期間中の厚生年金保険料積立実績を夫婦で分け合うことを目的としていることから、婚姻前の支払い実績は対象にはなりません。
 

分け与える側になることも

夫婦ともにフルタイムで会社勤めをしている場合、お互いの婚姻期間中の厚生年金の報酬部分を合計して半分に分け、その額と自己の年金受給額の差額分を求めることができるにすぎません。自己の年金額は考慮せずに、相手の厚生年金の報酬部分でだけを分けられると誤解している人も多いです。仮に収入が相手よりも多い場合には、分けてもらうつもりで分割請求すると、逆に分け与える側になります。
 

2種類の年金分割制度

以上のような年金の内容に応じて、その分割方法にも2種類あります。

合意分割 3号分割
対象 限定なし 夫婦の一方が第3号被保険者である場合
方法・手続き ・夫婦間の合意

・合意が得られなければ家庭裁判所で調停・審判、離婚訴訟の付帯処分手続き

夫婦間の合意や裁判手続は不要で、第3号被保険者が年金分割の請求手続きをする
分割の対象となる期間 婚姻期間全体 2008年4月1日以降の年金積立分
分割割合 50%を上限とする 50%
請求手続き 離婚後、年金手帳・離婚届・戸籍謄本・合意分割が決まったことを示す公正証書・調停調書・確定判決書などを揃えて、日本年金機構事務所に「標準報酬改定請求書」を提出する 離婚後、年金手帳・戸籍謄本をもって、日本年金機構事務所に「標準報酬改定請求書」を提出する
期間 離婚から2年 離婚から2年

 
 

分割の対象となる時期に注意

両者は、離婚に際して年金を分割するのに話し合いによる合意が必要、あるいは合意は不要で単独で請求できるという点について差異がありますが、最も大きな違いはその適用される期間です。

3号分割は2008年4月以降の年金積立実績にしか適用がありません。これよりも前から婚姻期間がある熟年離婚の場合は、3号分割だけでは年金分割ができません。たとえばサラリーマンや公務員の妻(専業主婦・年収130万円以下のパート主婦)が年金分割請求をする際に、自動的に厚生年金の報酬額の50%請求(3号分割)できるのは2008年4月1日以降の婚姻期間についてのみです。それ以前の婚姻期間については、あくまでも、当事者の合意で最大50%を限度として分割の割合を決めなければなりません。

この話し合いに相手が応じない場合には裁判手続きを経ることになり、決着がつくまで多くの時間・労力を要してしまいます。
 

まとめ

熟年離婚においては、年金受給額はその後の人生を左右する大問題です。相互の取り分を巡って感情的になり争いが激化・長期化しかねません。一方で、離婚すれば年金分割が自動的に行われるのではなく、離婚成立から2年以内に自ら日本年金機構事務所に請求しなければならないのです。離婚が成立してから年金分割を検討していたのでは遅きに失します。

熟年離婚をお考えの方はまず年金に関する情報通知書を請求するなどの周到な準備が不可欠です。年金をはじめ長年築き上げてきた財産分与をスムーズに行い、残りの人生を自分らしく前向きに生きていけるよう、弁護士がサポートします。

著者

後藤千絵先生
弁護士

後藤ごとう 千絵ちえ

京都府生まれ。滋賀県立膳所高校、大阪大学文学部卒業後、大手損害保険会社に総合職として入社。

30歳を過ぎてから法律の道を志し、2006年に旧司法試験に合格。

08年に弁護士登録し、2017年にスタッフ全員が女性であるフェリーチェ法律事務所を設立。

離婚や相続など、家族の事案を最も得意とし、近年は「モラハラ」対策にも力を入れている。

著作に「誰も教えてくれなかった離婚しないための結婚の基本」(KADOKAWA)、『職場の嫌な人から自分を守る言葉の護身術』(三笠書房)がある。

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