相続放棄に必要な書類は?続柄による違いに注意
相続放棄は、被相続人の借金など「負の遺産」の相続を回避する手段として知られています。被相続人の遺産を一切受け取らない代わりに借金も受け継がないことで、いわば「プラスマイナスゼロ」の状態を維持するわけですね。また、相続人同士の争いを回避したり、ある相続人に相続を集中させたりといったケースでも有効です。ただし、相続放棄に必要な書類は膨大な量になることがあり、その収集には手間がかかります。そこで今回は、相続放棄に必要な書類について解説していきます。
相続放棄に必要な書類は?
相続放棄で必ず用意しなくてはならない書類は、以下の5つです。
1.相続放棄申述書
2.被相続人の住民票除票
3.申述人の戸籍謄本
4.収入印紙800円分
5.切手(80円を数枚)
この5つは、申述人(相続放棄を申し立てる人)が被相続人とどのような関係であっても用意すべきものです。また、この5つの他に、被相続人との関係によって追加書類が必要になる場合もあります。被相続人との関係によって必要になる追加書類は、以下の通りです。
1.被相続人の配偶者…被相続人が死亡した旨が記載されている戸籍謄本
2.被相続人の子(孫)…被相続人が死亡した旨が記載されている戸籍謄本(被代襲者が死亡した旨が記載されている戸籍謄本)
3.被相続人の親(祖父母)…被相続人の出生時から死亡時まで全ての戸籍謄本、配偶者(もしくは子供)の出生時から死亡時まで全ての戸籍謄本、(被相続人の親が死亡した旨が記載されている戸籍謄本)
4.被相続人の兄弟姉妹(甥姪)…被相続人の出生時から死亡時まで全ての戸籍謄本、配偶者(もしくは子供)の出生時から死亡時まで全ての戸籍謄本、被相続人の親が死亡した旨が記載されている戸籍謄本、(被相続人の兄弟姉妹が死亡した旨が記載されている戸籍謄本)
このように、配偶者⇒子供⇒親(祖父母)⇒兄弟姉妹(甥姪)と、法定相続の順位が下がるごとに必要書類が増えていきます。
被相続人の配偶者や子供が相続放棄を選択するなら、書類は「必須の5種類+被相続人の死亡がわかる戸籍謄本」の6つだけです。しかし、被相続人の親(祖父母)や兄弟姉妹(甥姪)の場合は、「出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本」が必要になります。
この「出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本」は揃えるだけでも一苦労であり、大変な手間と労力を要することが珍しくありません。さら孫や甥姪の相続放棄は代襲相続が絡むため、手続きが複雑化する傾向にあります。
相続放棄の手続きのタイムリミットと流れは?
書類が集まった後は、相続放棄の手続きを行います。ちなみに相続放棄のタイムリミットは「3ヶ月」です。「熟慮期間(相続があることを知った日から3ヶ月)」の間に相続放棄の手続きが必要だからです。もし熟慮期間内に相続放棄の手続きを行わなければ、単純承認(被相続人の遺産、権利義務関係を全て受け継ぐこと)を選択したことになります。これは民法第915条に規定があります。
“第915条 (相続の承認又は放棄をすべき期間)
1.相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2.相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。”
では実際に相続放棄の手続きを見ていきましょう。相続放棄は、主に以下の4ステップで行われます。
1.相続放棄申述書および添付書類を家庭裁判所に提出する
「被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所」に提出します。ここで収入印紙800円と、連絡用の切手を使用します。切手の必要枚数は家庭裁判所によって異なりますが、概ね1000円以内に収まるでしょう。
2.家庭裁判所からの照会に回答する
家庭裁判所から申述人宛に照会書が送られてきます。照会書には「被相続人の死亡を知った時期」「相続放棄が自らの意思であることの確認」「相続放棄を選択する理由」「遺産の使い込みがないか」などが記載されています。確認の意味合いが強いため、素直に回答すれば特に問題はないでしょう。
3.家庭裁判所が相続放棄を受理する(相続放棄受理通知書の交付)
家庭裁判所が相続放棄に問題が無いと判断すると、相続放棄が受理され「相続放棄受理通知書」が送られてきます。他の相続人に相続放棄の選択を知らせたいときは、この通知書を使うと良いでしょう。ただし、相続放棄受理通知書は相続放棄の事実を示すものではありません。あくまでも受理されたことを証明する書類です。
4.家庭裁判所から相続放棄受理証明書が交付される
相続放棄受理通知書だけで相続放棄の証明ができない場合には、任意で「相続放棄受理証明書」を発行してもらえます。ただし、手数料として150円程度の収入印紙が必要です。
専門家に依頼して労力の削減を
相続放棄は3ヶ月と期間が決まっているうえに、複数の戸籍謄本が必要になるなど、書類の収集に時間を要します。特に「出生から死亡までの全ての戸籍謄本」は、管轄する自治体が複数になることも多く、照会・移動・収集の手間がかさみがちです。相続に強い弁護士に書類収集、手続きを依頼すれば、こういった手間からは解放されるでしょう。
また、3か月のタイムリミットを考慮しながら段取りを組んでくれるため、手続きがスムーズに進むはずです。膨大な書類の収集と整理にかかる労力を削減しながら、確実な相続放棄を目指したいですね。